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夢の中の俺と現実の中の彼  作者: 私様
夢:レッツ生物災害
10/15

第十話 安全地帯は存在しない

ショッピングセンターまでの道のりは順調そのものだった。

やはり主人公の実力は伊達ではない。

ゾンビがバタバタ倒れていく様は一種の爽快感を感じさせる。

サトミも同じ思いを抱いたのか、終始目を真ん丸にしていた。

いや、子供に見せるべき光景じゃないことはわかるんだが、悲しいかな体が動かない。


「ショッピングセンターだ」


ハリーが言う。

だがその声はやや暗い。

ショッピングセンターの周りを見れば、自然にその理由がわかった。

ゾンビたちが、ショッピングセンターの入り口に作られたバリケードに群がっていたからだ。


(指示。汗を拭いながら「ある程度いることは予想していたが………まさか、ここまでとはな…………」)

「ある程度いることは予想していたが………まさか、ここまでとはな………」

「あの数を相手にするのは不味いな……」

「ええ、弾を使いきるつもりで戦えば倒せるでしょうけど……」

「脱出のことを考えないとです。無駄遣いはいけないって、月末、悲しくなるからよくわかってるです」


サトミの言葉を聞いて机の上の財布を思い出す。

彼女(サイフ)が痩せ細ってく度、自分の無力感を味わったものだ。


「正面から行くのは愚策だろう。だから、業務員用だとかの入り口を使おう」

「なるほど、そこならゾンビも少なそうね」

「ぐどあいでぃーあです、ハリーさん!」

(指示。「なら、急ぐとしよう。雨に打たれて体を冷やすのは良くない」)

「なら、急ぐとしよう。雨に打たれて体を冷やすのは良くない」


俺が言う通り、今にも雨が降ってきそうな空模様だった。

監督にしては気が利く…………なんて思うわけはない。

ただ単に脚本通りに俺を殺そうとしてるだけだ。

要するに「巻きでお願いします」と言うヤツだ。


「確かに、こんな所で調子を崩してはいけないな」

「そうね…………あっ! あそこからなら入れそうよ」


ナンシーが指差す先を見ると、扉があった。


「よし、周りにゾンビも少ない。開いてなかったら商品搬入用の場所から入れば良いだろう」

(指示。「それで行こう。……弾はまだあるか?」)

「それで行こう。……弾はまだあるか?」

「フッ、大丈夫だ。しっかり予備もある」

「私もよ。まだまだ戦えるわ」


そう言う姿は頼もしい。


「それじゃ、行動を開始するぞ」


前をハリーが走り、一番後ろをナンシーが走り、俺とサトミはその間を走る。

情けない? 仕方ないだろう、俺が物資持っているんだから。

ところで、パニック物の物資係って大抵物資巻き添えにして死ぬよね。


「ひぃ…………ひぃ…………ふひぃ…………」


サトミの息がヤバい。

ペースを落とすように言いたいが、今ペースを落とすのは不味い。

囲まれる可能性が高くなる。

頑張れサトミ!

今、努力したら明日から君がかけっこナンバーワンだ!

あ、夢だから意味無いのか。

………頑張れサトミ!


「……………ぃ!……………ぃ!」

「クソッ!? 南京錠が………」

(指示。「なら迂回を……」)

「知るかーッ! ペンチで無理矢理開けてやるわーっ!!」

「ちょっ、ケビン!?」


これ以上はダメだ!

サトミが持たん時が来ているんだ!

やれば出来るやれば!

渾身の力を込めてペンチで南京錠を挟む。


ペキッ!


「よっしゃ割れたくたばれぇ!」


壊れかけの南京錠にペンチを鈍器代わりに何度も叩きつける。

衝撃に耐えきれず、南京錠は壊れた。


「ナイスだケビン! 早く中に入れ! ヤツらが来るぞ!!」


全員が扉の中に飛び込んだ。

そして素早く扉を適当なバリケードで封鎖する。

……………暫くすると、ドンドンドンと扉を叩く音がした。

勿論、入れてやるつもりはない。

貴様はそこで雨に濡れていろ。

ふははははははははははは!


「あ、あのーケビンさん?」


振り向くと不安そうな顔をしたナンシーとサトミ。ハリーは周囲を警戒している。


(指示。「何かな?」)

「何かな?」

「ええと、大丈夫なのかなと思ってね? いや別にいきなり叫んで南京錠を殴り始めたから心配になったわけじゃなくてね?」

「ナンシーさん、ナンシーさん。本音駄々漏れです。アウトです」

「ええっ!?」


冷静に考えて、あそこでアレする必要あったんだろうか。

というか筋肉痛が確定した。オーマイガー。

いや、これ以上やらかさなければ酷くはならないだろう。


(警告。過度なアドリブは精神および肉体に負荷を掛けます)


Oh………。 

た、直ちに健康に影響はない。ないったらない。


「おいおいしっかりしてくれよ。ケビン」

「!」

「さあ、先に進もう。………ケビン、さっきのお前輝いてたぜ」

「………………」


遅れてはいけない。

先に進むとしよう。

暫くすると、一階の食品売り場まで来た。



「おかしい」

「え?」

「ハリーさん。何がおかしいんですか?」

「人がいない」

「………?」

「バリケードはある。だがそれだけで安心できるか? 普通は見張りを立てるなりするだろう」

「監視カメラで行っているんじゃない?」

「だとしたら、きっと生存者は一人か二人だろうな」

(指示。「……誰も俺たちの様子を見に来ないからか?」)

「……誰も俺たちの様子を見に来ないからか?」

「ああ、そうだ。……逆に言えば余計なしがらみが出来にくい。当初の予定通り抜けていった方が、お互いのためだ」


そう言うと、ハリーは見取り図が無いか探し始めた。

 

「じゃあ私は使えそうな物を探してくるわ」

「えと、えと私は………」

「サトミはケビンとここで待ってくれる?」

「えー」


頬を膨らまして拗ねる。

なんとなくその姿はハムスターを思い出させた。


(指示。ベンチを指差しながら「じゃ、あそこで待ってよう」)

「じゃ、あそこで待ってよう」

「むぅ~、しかたないです。今回の手柄はハリーさんとナンシーさんにあげるのです」

「ふふっ、じゃあ譲って貰った分頑張らないとね。サトミをよろしくねケビン?」

(指示。「任せてくれ」)

「任せてくれ」

「また後で、です」


サトミが手を振って見送る。

ナンシーも手を振りながら店の奥の方に入っていった。


(許可。ケビン・モットレイの役割から離れすぎないレベルのアドリブ)


あ、面倒くさくなったんだな。


「………ふぅ。ひとまず休憩だな………」

「そうですね。とっても疲れたです」

「水飲むか?」

「飲むです!」


元気よく返事をする。

でもすぐにベンチにもたれて、溶けたバターみたいになる。

その姿に苦笑しながら水を渡す。


「はい、どうぞ」

「ありがとです! んぐんぐんぐ…………けほっ!?」

「だ、大丈夫か? ゆっくり飲めよ?」

「ふぁ、ふぁい」


大丈夫なんだろうかこの子は。

ちょっとこの子の将来が心配になる。

いや、人の将来を心配する前に自分の将来を心配するべきだった。そろそろ進路を固めないといけないんだった。

なんて少し遠い目をしているとサトミが少し遠慮しながら話しかけてきた。


「あの」

「ん? なんだ?」

「私たち脱出できるんでしょうか」

「出来る」

「はやっ!? 一秒も経ってないです!」

「出来るもんは出来るんだから仕方ないだろう」

「どこから来るんですかその自信は………」


サトミは呆れたような視線を俺の頬の辺りに送る。

ジト目は止めんかジト目は。

成長したら美人になると確信できる見た目から放たれるジト目は威力が高いんだ。

ここまで考えて『あ、これ商売になるんじゃね』とか思ってしまった自分に虚しさを感じた。ピュアなあの頃の自分は何処へ行ったのだろう。


「おーい、大丈夫でーすーかー?」

「あ、ああ。すまない。で、なんだっけ」

「むー、人の話はしっかり聞いてくださいです。一回しかもう言いませんよ。なんでそんなに自信があるんです?」

「まぁ、第一にあの二人かな」


というか、それが九割だ。


「ハリーさんとナンシーさんですか。………確かにあの人たちについてったら助かりそうですよね。ナンシーさん、うっかりしてますけど」

「うっかりしてるよなぁ…………。あの人」

「第一に……っていうんですから、まだあるんですよね?」

「あるぞ。第二に俺は物資をたくさん持ってる」

「………死亡フラグって知ってます? ケビンさん」

「俺、この街から出たらピザ屋のあの娘に告白するんだ………!」

「それ死亡フラグです! というかピザ屋の人、ゾンビになってるでしょ!」


鋭い突っ込み。これは逸材だな。


「ピザはハーブ使ってるから大丈夫だろう」

「ハーブで回復はしないですっ!?」

「しないのかー………」

「しないです」

「ほんとは「しないです」…………そっか………」


おかしいな。この会話で『キャー! ケビンさんってばカッコイー! マジ、リスペクトっすわー! ちょべりぐー』とか言われて尊敬されるつもりだったんだけどな?

なんでちょっと可哀想な人を見る目で見られてるんだろうか。


「はぁ、ケビンさんが思ってたより不思議さんで残念です」

「……実はさっきまでのはジョーク。イッツ、ア、ジョーク」

「目がマジでした」

「目で人の心が読めるのか………」

「口ほどに物を言うです。せんせーが言ってました」

「なんてこった………、コンビニのあの娘に既に俺の気持ちは伝わってたって言うのか………!」

「…………じとー」

「おーい、地図があったぞー」

「物資もある程度集められたわ!」


どうやらハリーとナンシーが戻ってきたようだ。


「よし、とりあえず分配しよう。……リスクは減らしたいからな」


ハリーが言う。

恐らく、誰かが欠けても問題が無いようにするためだろう。


(指示。バックから物資をとりだしながら「なら出来るだけ早くしよう」)

「なら出来るだけ早くしよう」

「ああ」


数分後。

物資が分配された。

俺はバールだとかの工具を貰い、ハリーとナンシーは銃と弾を多目に貰った。

荷物が纏まり、さあ行くかという所でハリーが思い出したかのように話始めた。


「二階の監視室にじいさんが一人いたんだが、『関わらないでくれ』と言っていた。あそこで一週間待とうと思っているそうだ。地図の場所を聞くついでに何か知らないかと聞いたらな、俺たちが来る前に変なうなり声が聞こえたそうだ」

「うなり声…………犬かしら?」 

(指示。「こんな状況なんだ。そいつも腐ってそうだな」)

「こんな状況なんだ。そいつも腐ってそうだな」

「止めてくださいです。言っちゃったら本当に出そうです! ゾンビ犬」


はっはっは、そうそう出るわけないだろ。なんて笑い飛ばそうとした矢先。


「ガラルグギャアアアアアアーーー!」


ゾンビの無気力な呻き声とは比べ物にならない声が聞こえてきた。

地の底から這い出てきた化け物がいたとしたら、きっとこんな声だろう。

その数秒後には、ゾンビの侵入を防いでいたバリケードが豪快な音を立てて吹き飛んだ。


「嘘でしょ………!」

「…………ッ! 俺について来い!」


ハリーが一番最初に正気を取り戻し、逃げるように言う。

それによって俺たちも正気を取り戻して、ハリーの後を追う。

破られたバリケードから大量のゾンビがなだれ込む。その光景は状況と相まって閉店セールを思い出させる。もちろん商品は俺たちだ。

窓から見える空は、化け物の口の中のように暗く、そして大量の(よだれ)を地上に垂らしていた。

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