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殴っていいよ
薄暗い部屋。
灰色がかった視界。
笑顔の、僕。
激昂した彼氏が腰のところに馬乗り。
ぎゅっと握りしめた手が宙に浮く。
でも決して殴ってこない。
物足りない。
別にマゾヒストな訳ではないし、
痛いのは嫌いだけど。
相手が怒ってると愛されてる感じするじゃん。
「なんで笑うんだよ」
食いしばられた歯から発せられる声。
低い声。
怒ってる。
笑う僕。
焦ったような表情。
宙に浮いていた拳は行き所を失ったのかそのまま
重力に従って降りてきた。
「殴っていいよ」
「無理」
「僕のこと好きじゃないの?」