「うるせえバジルシードぶっかけんぞ」
バジルシードって、やっぱ知らない人多いんでしょうか?
知らない人はぐぐれい!気持ち悪い食べ物だから自己責任じゃぞ!
「5秒後マップに到着します。ご武運を」
無機質なシステムメッセージがメニューに表示される。
その言葉通り5秒後、視界が一瞬真っ白になり眩しくて目を閉じてしまう。
再び目を開けると俺たちは鬱蒼とした森の中に立っていた。
辺りを見回してみるが敵らしき影は見えない。
念の為にスキル「虫の知らせ」を発動させると少し離れた場所に一つの反応を確認できた。
「よっし。じゃあ敵の位置は大体わかった。ビックベアじゃない可能性もあるが警戒を怠るなよ」
「くまー!」
「先生さっそく警戒を怠ってる人が1名」
「……くまったな」
「「……」」
…………。
うん。
「さあ行こうか諸君!」
「誤魔化したっ!」
そこはスルーしてくれよ!俺はクールな人で通っていたいんだ!
「汚いな。流石あっし汚い」
「うるせえバジルシードぶっかけんぞ」
「ばじるしーど?」
「えっ。知らない?神も?」
「知らない」「知らん」
……もういやあぁぁぁっ!
ダジャレは滑るしバジルシードは通じないなんて。
俺は今すぐこの場から逃げ出したくなっていた。
もう熊でも敵でもいいからこの居たたまれない雰囲気を壊してださい。
そんな思いに呼応するかのように近くの草むらが揺れる。
はっとして武器を草むらに向けて構える。
程なくして草むらから出てきたのは小さな小熊だった。
それに過剰に反応を示したのはやはりというか、スズだった。
「ク、クマー!」
「……あ、野生の子熊が飛び出してきた」
「モ○スターボール投げよう」
「何やってるんですか!熊ですよ!撫でましょう!」
いそいそと近寄り小熊を抱くスズ。案外小熊は抵抗せず、スズのぬいぐるみのような状態なっていた。
「すっごい……もふもふ……」
もふもふもふもふもふ。
そんな擬音さえ聞こえてきそうなほどにスズは小熊の毛を堪能していた。神も小熊の毛を触ってみたいのか近くでうずうずしていた。
……やだ。ちょっともふもふしたくなってきた。
その誘惑に負け俺も小熊を抱くためにスズに近寄る。
刹那、黒い何かが草むらから飛び出してくる。
敵かと警戒し武器を構えるとその黒い何かの頭の上に名前が表示されているのが分かった。
どうやら他のプレイヤーのようだ。フードを被っていて顔はよく見えないが多分男性だろう。
防具はかなり軽装だが、もしかしたら動きやすいように軽装にしているのだろうか。
「こんにちは」
冷静に男性を分析しているとふいに全体チャットに書き込みがされる。どうやらこのフードの男性からのようだ。
そうだ。もしかしたらこの人だったらビッグベアの位置を知ってるんじゃないか?
「こんにちは。俺たちビッグベアっていうのを探してるんですが……」
「ああ、それならあっちでさっき見かけましたよ。そう遠くはないのですぐ見つかると思います」
おお、優しいなこの人。やっぱり聞いて良かった。
あっちって言うと少し木の生えてない広間があるところだな。
場所もわかったし二人を呼ぶために振り返る。
「……ばかだなぁ」
「えっ?」
そんなつぶやきのに伴い、背中から何かを突き刺されるような感触に襲われ、驚愕する。
ゲームだからか痛みは無かったが力が抜けていくような気持ち悪い感覚だった。
犯人の顔を拝んでやろうと振り返ろうとするが背中を蹴られ刺さっていたナイフの抜ける感触を感じながらスズと神のいる場所に蹴っ飛ばされる。HPは黄色の表示になり危険を示していた。
流石に状況のおかしさに気づいたのか神とスズは立ち上がり武器を構えながら俺の体を起こしてくれる。
蹴っ飛ばされた場所を見るとそこには黒いフードの男が微笑を浮かべながら立っていた。