夏休み-初日前-
「ではくれぐれも犯罪に巻き込まれないよう気を付けて夏休みをお過ごしくださいね」
「あー!やっと夏休みだなあっしー」
担任の夏休みの忠告が終わって2秒もしないうちに神は俺の席にきた。
こいつは腐れ縁の神。かみと書いて「ジン」と読む。珍しい名字だが青森限定でいる、らしい。
「さて夏休み何する?保育園見学か!それとも幼稚園児ウォッチングか!?」
そして生粋のロリコンでもある。
「それより何かおすすめのオンラインゲームとかないか?最近飽きが早くなってな」
そして俺が田中 敦。敦は「あつし」とよむ。だが神たちには"つ"を省略してあっしと呼ばれている。まあもう慣れたからいいけど
俺は平凡なゲーマーであり、貧乳派である。ここはゆずらん。ちなみに神は巨乳派である。
「そだなー。お、そうだ!お前、家に現れる異空間の噂ってしってるか?何か日本各地で自分の家に異空間が出た所があるらしい。しかもその中は一つのオンラインゲームになってるんだと。3chでも噂になってたぜ!」
「へえ、まあ俺たちの所に異空間なんて出ないんじゃないか?宝くじみたいなもんだろ」
「まあな。でも出たら面白そうだよなー!そん中だったら巨乳の獣耳っ子とかいるんじゃないか?」
「ほう……興味深いな……!」
そんなことを駄弁りながら学校を出るため靴を履いているとぽつぽつと雨がふってきた。
「げぇ、雨ふってきた。夏なのに。しかたない、10分くらいまてば止むだろ」
「そだな」
しかし最初はとおり雨かと思っていた雨は次第に勢いを増し10分後にはゲリラ豪雨かと間違えるほどの大雨に成長した。
「……もう走るしかなさそうだぞ」
「まじっすか……」
俺の今年のサマーバケーションは初日から大雨で迎えたのであった。
---------------帰り道----------------
「あああああ!もう!天気予報で雨降るなんて言ってなかっただろおおおお!」
「そんな事言ってる暇あったら足動かせ、足」
俺たちはそんな声を道端に響かせながら走っていた。
今日ほど車で学校に来るやつが羨ましいと思ったことはない。
「……なーん」
ん、なんだ今の声?神の声ではない。
「なんだ?猫か?」
神が言う。なるほど。確かに猫と言われればそうかもしれない。ちょっと微妙な鳴き声だけど。
「こんなゲリラ豪雨の中じゃ猫死ぬんじゃないか?見つけてどっかで雨宿りさせようぜ!」
「あ、ああ。でもここら辺で雨宿りする所あるか?人ん家くらいしかないぞ」
「そん時はお前ん家でよろしく」
「……まじで?」
「まじで」
……厄日だ。
ということで猫を探すことになったのだが案外俺たちが通ってきた道にいた。
ご丁寧に”拾ってください”と書かれた雨でぐっちゃぐちゃの段ボールだったであろう物の中にそいつはいた。……なるほどな。こんな雨でつぶれかけている段ボールじゃ確かに見逃していたのかもしれない。
鳴き声の持ち主であろうそいつは段ボールの中に敷かれた布と一緒に水を吸って毛がぺたーんとしていた。
……かわいいじゃねえか。
「見た所捨て猫っぽいなー。いや、捨て子猫か?」
「親許してくれるかなー。一応親父の方はペット飼いてーって言ってた気はするが……」
「ま、いいやそんな事より早く家帰ろうぜ!そろそろ風邪ひくかもしれないしな。夏休み初日で風邪スタートとかやってらんないだろ!」
「そだな。んじゃさっさと行くか」
俺たちは震える猫を抱え自分の家へと一目散に走った。