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永遠になれない僕たちは、  作者: 栗しんや
第一章『そして、彼らは駆け出すように。』
4/13

 というわけで、更新しました。

 しょっぱなからアレです。エッチいです。多分。


 ……原作関連を読み返して思ったことをば。

 原作『ログ・ホライズン』の外伝『HoneyMoonLogs』にナナミという〈大地人〉の女の子が出てきますが、本作『永遠になれない僕たちは、』に出てくるヒロイン、ナナとは一切関係ありません。絡むかもしれませんが、同一人物とかそういうのではないです。はい。


 では、本編をどうぞ。

 そして、僕らは同じベッドで寝た。

 ……いや、それだけじゃ説明不足だ。もっとハッキリと、それなりにわかりやすく言おう。

 僕と彼女は、性的な意味で抱き合った。

 セックスした。

〈アキバの街〉のどこか――誰にも使われていない廃ビルの中にある彼女の家。ボロボロで、汚いベッドに、小さな明かり。それ以外には、テーブルと服らしき布切れ。ただそれだけの部屋。

 そこで、僕は彼女の身体を味わった。

 ナナ――彼女の名前だ――は、れっきとした〈大地人〉の少女だ。サブ職業は、娼姫。メニュー表示で確認したから、間違いはないと思う。

 NPCの少女。ゲームでは詳しく描写されることのなかった存在。

 ――花売り。

 そして、そんなナナの身体を味わうことを――僕は選んでしまったんだ。

 どうしてそうしてしまったのかは自分でもよくわからない。ナナは少女で、僕よりも幼かった。

 普通なら倫理観が働きそうなものなのに、頭のどこかがぶっ壊れたみたいに僕はそうなることを受け入れてしまっていた。

 冷静だったら、そうはしなかったかもしれない。鏡に映った自分を、狂っているとでも罵りたくなるくらいには……不条理な行動だった気がするから。

 そうして、熱に浮かされたように動いて、二人してベッドに横になった。流されるように。それしか知らないとでも言うように。

「……本当に、良いのか?」

「お金くれるなら。わたし、これしか知らないから……」

 搾りかすのような最終確認に対して、彼女が答えたのはそれだけだった。

 金さえあれば、抱いても良い。

 そう直結した自分の思考が、どす黒いものに支配されて一瞬だけ止まる。不条理、気持ち悪さ、憎悪にも似た感情。

 そんな僕を見透かすように――ナナは、僕の唇にキスをして、舌を差し込んでくる。

 僕にとってのファーストキスは呆気なく奪われ、柔らかくて温かい唇の感触を味わう。歯茎を舐められ、心地よさを感じる。

 こちらからも舌を出すと、触手のように舌と舌が絡み合った。ナナの舌は、熱くて、溶けそうなバターのよう。

 ディープキスをしているうちに、僕とナナが一体化していくような錯覚を抱いてくる。欠けたものを埋められて、満たされたような気持ちだった。

 あまりにも満たされて、もっと欲しいと思った。

 ――そして、僕らはセックスした。


 朝起きた僕が真っ先にしたことは、服を着ることとキッチンを目指すことだった。

 同じベッドで眠っているナナに、キチンを布団をかけ直し、先払いとして彼女と身体を重ねた数に比例する分の金を置いて、ビルの中を歩き出した。

 目的地はキッチンだ。それなりに大きめのビルで、昨日のうちに場所を聞いておいた。そこを目指して、若干くたびれた印象のあるビルの中を歩き続けている。

 しかしまぁ、僕は本当にしちゃったみたいだ。露骨な表現を用いるならば、童貞喪失ってヤツだ。しかも、少女相手にである。現代社会なら、逮捕されるようなことをやらかした。

(……まぁ、そうでなくても逮捕されるかもしれないけどさ)

 とりあえず、そこらへんに関してはあまり考えないことにする。強いて言えば、ナナの身体は魅力的でエロくて最高だった――ああ、もう、言ってる傍から、すぐこれだ。

 ぶんぶん頭を振って、今度こそ思考を冷却する。そんなことをしている内に、キッチンらしきものを見つけた。

 キッチンは、それなりに清潔だ。埃も被っていなくて、ボロボロで使い物にならないわけじゃなさそうだ。食品衛生法的に問題があるかないか、と言われると微妙かもしれないが。

 ナナ曰く、少し前まで誰かが使っていたゾーンらしい。持ち主がいなくなり、元住んでいた場所も住めなくなったから、ここに引っ越してきたとのこと。

(……期待はしてなかったけど)

 コンロらしきものを適当にいじってみる。火が点いて、調整できる。ゲーム時代から思っていたんだけど、どういう原理なんだろうか。電気やガスじゃないよね、これ。

(それはともかく、これなら……)

 というわけで、鞄から包丁にまな板、フライパンその他諸々を取り出して、料理をしてみることにする。

 さてさて、鬼が出るか蛇が出るか……。


 ことを終えて、部屋に戻ると、ナナはさっきと変わらずに眠っていた。よっぽど疲れていたんだね。

 でも、そろそろ起きてほしいなぁと思っていると、どうやら目が覚めたらしく、のっそりと起き上がった。ゴシゴシと目をこすって、ぽややーんと眠そうな目で周囲を見渡して、僕を見る。その仕草可愛い。

 やがて、意識がハッキリしたのか、僕の方を見て不思議そうな表情をして、ポツリと問いかけてきた。

「……帰らないの?」

 帰る場所がないんですよ、と答えそうになるも抑えて、僕は「おはよう」と声をかけた。

「……お、おはよう」

 ナナも、ぎこちなく挨拶を返してくれる。挨拶に慣れていないのかな。昨日今日会った相手に挨拶するのは、ちょっと抵抗あるからそっちかも知れないけど。

「ご飯用意したけど、食べる?」

 僕は、親指でご飯を指し示す。勝手に用意したご飯だけど、昨日二人で食べた味のないご飯よりはマシだろう。

 それに対してナナはどう答えるのか――と思っていると、どこからか「ぐー」と腹の音らしきものが聞こえてきた。少なくとも、僕じゃない。

「……あ」

 ナナだった。今の腹の虫はナナのモノだったのだ。お腹も空いていたんだね。

「……食べる」

 ナナは、お腹を撫でて腹の虫を宥めながら、机に置かれ湯気の立った皿を見て、何とも言えない顔をする。好奇心と、疑問と、不安の混じったような顔だ。

 けれども、また腹の虫が鳴って、そこでようやくコクンと頷いた。食欲には勝てなかったらしい。

 ――さぁ、朝食の時間だ。


「……こんなの、初めて」

 ナナは、チャーハンを一口食べて、目を見開きながらそう言った。何がどう初めてなのか詳しく教えてほしいよ、ハリー、ハリー。

 それはともかく、結論から言うと、調理の際に出てきたのは鬼でもなく、蛇でもなく、仏だった。

 料理スキルでは味のないご飯が出来るけど、普通に調理すればそれなりのものが出来る。

 いやー、良かった良かった。これで駄目だったら、絶望するところだったよ。食材が、僕の調理を拒んだとか、そんな風に。

 だから、僕は勝ったのだ! 料理に!

「こ、これ、どうやって……」

 作ったのか、ってことを聞きたいんだろう。僕はそれに満足しながら、自分の分のチャーハンを食べ始める。特に突出したところの無い――味付けにはこだわったけど――普通のチャーハンなんだけどな。

「どうして、料理に味なんて……」

 どうやら、ナナは料理に味があることに驚いているらしい。それもそうか。味のない料理が当たり前の世界で生きてきた、と考えるとカルチャーショックに近いのかもしれない。

 料理はスキルで作るもの。そういうのが当たり前なのは、昨日寄った店で買って食べた料理でよく知っている。

 しかしまぁ、どういう歴史の上に成り立ってる世界なんだろうか。いつから世界にとって料理はスキルで作るものになって、手作業で作る料理は人々の記憶から消えてしまったのか。

 ま、今はそんなこといいか。

「どう、美味しい?」

 色々と驚きながらも、ガツガツとチャーハンを貪るナナに問いかける。このご飯が美味しいか美味しくないか、口に合うか合わないか。それが気になって仕方がない。気になりすぎて不安なくらいだ。これと似たような不安は、麟太郎や輝夫に初めて手料理を披露した時以来かもしれない。

 そんな僕の不安とは裏腹に――。

「…………美味しいって、なに?」

「……まさか、そっちとは予想外だ」

 ナナの言葉にショックを受ける。美味しいとか不味いだとか、そういう価値観がないみたいじゃないか。ずっと、あんな味のないものを食べてきたのかよ。

 ――美味しいって意味も知らないような、そんな。

「まぁ、とにかく、お腹空いてるなら食べなよ」

 僕は、嫌な気持ちを胸の中で押し潰す。無理矢理口元を歪めて、微笑んでみせる。アルカイックスマイルに見えなければ良いんだけども。

 そう言うと、ナナはどこか慣れないようにコクンと頷いて食事を再開する。スプーンで一口一口大事に食べるように。

 僕もチャーハンを口に運んで食べる。今ある材料だけでやれた、それなりの自信作。結構美味しい。

 でも、気のせいか、一人きりで食べるご飯よりはマシかなって思う。ましてや、自分の作った料理が、好きになった人に食べて貰えるってのは嬉しいことだ。

 ――あれ、好きになった人?

 ほぼ無意識的に出た言葉に、少しだけ考え込んでしまう。僕がこれまで好きになった人たち。麟太郎と輝夫と、数人くらい。その中に、ナナの名前が入っているような気がする。

 ……あー、ひょっとして、情が移ったってことなのかな。

 身体を重ねた彼女――ナナに。一度セックスしてから、気にするような関係みたいな。セックスフレンドじゃあるまいし。

「……シンイチさんは、食べないの?」

「食べるよ。あと、シンイチで良いから」

 ……とりあえず、情が移ってるってのは否定しないことにした。あれだ。セックスしたからだ。セックスで縮まる関係のような何か。

 だからって、セックスから始まる関係もあるんだよ――なんてことは言わないけども。


 安心したのかどうかわからないけど、ナナは再び眠りに就いた。ベッドの上に横になって、すぅすぅと安らかに寝ている。

 僕に心を許しているような、安心して眠っているような感じだった。

「…………」

 そんな彼女を横目に、腹の中が煮えくり返りそうなことを思い出している。ナナのことについて。セックスの後に、ナナに聞いた些細な疑問たち。それに答えてくれたナナの言葉を。

 ――ゲームの世界でさえ、彼女に優しくなかった。

 一回100G。

 それが、セックスの際、ナナから提示された金額だった。花売り――売春とでも言うべきなのか。その値段で買われることを、ナナは望んでいた。

 キッカケは、500G。僕が気まぐれであげた、端金。たかがその程度の金額で、彼女は僕という甘い蜜に飛び付いた。

「こんなの、知らない……っ!」

 喘ぎながら彼女がそう言ったのを覚えている。僕は彼女を抱いた。出来るだけ優しくしようとして抱いた。経験が一回もない僕は、その初めての体験で慎重に動いていた。ぎこちなく、心地良くもないテクニックだったはずだ。

 ――なのに、彼女は気持ち良いと喘いでいた。

「わたし、これしか知らないから……」

 セックスの最終確認の際に、彼女がそう言っていたのを思い出す。これしか知らなかった。セックスしか知らなかった。セックスしか生きる方法を知らなかった。言ってしまえばそれだけだった。

 ああ、だから彼女のサブ職業が娼姫なのか。そうか、そういうことか。謎が一つ解けたよ。彼女にはそれしかないんだ。そうやって生きるしかなかったのか。あははは。笑えねぇよ、くそ。誰も気が付かなかったのかよ、何もしなかったのかよ、ふざけんな!! ちくしょう!!

 声に出すことなく、腹の中で何かが吼える。吼え続けている。煮えくり返った感情がグルグル回り、頭の中がチカチカする。

 ――思い出せ、シンイチ。この世界はゲームの世界だろう?

 僕の頭を自分自身が冷却しようとする。けれども、注がれていく冷却物質は、今の僕にとっては油かガソリンでしかない。貧困、生まれ育ち、理不尽、不条理、嘔吐。

 唐突に、気持ち悪くて吐きそうになる。口元を抑えて押し留める。涙が出そうでイライラする。考え過ぎだった。感情がそれに耐えられなかった。

 深く息を吸って吐き出す。少しだけ落ち着く。自分自身を両腕で抱き締めて、溢れ出そうなものを抑え込む。

 そうでもしないと耐えられそうになかった。爆発してしまいそうだった。堪忍袋は一度ズタボロに引き千切れ、今となっては剥がれかけのカサブタだ。

「……くそっ」

 誰でも良いから何かを話したくなった。この苛立ちを誰かに諌めてもらいたかった。

 けれど、今ここには麟太郎はいない。輝夫もいない。いるのは眠っているナナだけだ。

「…………ナナ」

 ナナ。

 僕とセックスした少女。僕と寝た少女。僕の童貞を奪って、初めて快感を得たと喘いだ少女。

 僕は、そんな彼女を見て、ちょっとだけ甘えてもいいのかな、と考える。気まぐれが起こしたものに流されて、目の前にぶら下がった甘い蜜に縋っている。

 気持ちも参っている。どうしようにもない。どうすればいいのかもわからない。

 それは何の目的もなく、何も無い砂漠の真ん中に突き放されたみたいで。

「……僕は、どうしたいんだろうね」

 自分自身に問いかけても、誰も何も答えてくれない。それがちょっとだけ辛くなって、僕は輝夫に念話をかけ始めた。

 一応、次の話まで書きましたが、主人公に感情移入して書いた結果、結構支離滅裂でグチャグチャな話になりました(シンイチらしい話だとは思いますが)。これをそのままに出すか、書き直すか考え中です。

 あと、結構なかなか進まないです。次の次の話か、そのまた次の話あたりで物語にエンジンがかかるような感じにするつもりではいますが……。


 次の次の話書いたら、次回を投稿します。

 それまで気ままにお待ちください。

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