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永遠になれない僕たちは、  作者: 栗しんや
第二章『誰も。』
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プロローグ

 どうも、お久しぶりです。

 栗しんやです。

 仕事の合間に、モソモソと書いていまして、ようやっと第二章のイメージが固まってきました。

 とはいえ、都合により、今回から間を置くような不定期更新という感じにはなりますが……。


 今回も、生暖かく見守っていただければ幸いです。

 ――雨の降る音で、目が覚めた。

 パチパチと瞬きを繰り返す。首を左右に振って、意識をゆっくりと覚醒させていく。

 ベッドに手をついて起き上がろうと、右腕を動かそうとして――ふにょんと手の平から伝わる、柔らかな感触に気が付いた。

 視線を向けると、

「…………ナナ」

 そこには、緑髪の少女が眠っている。僕の恋人――にあたるのかな――のナナだ。彼女は僕の腕をギューッと抱き締めたまま離さない。

「むにゅ、むにゃ……」

 彼女は、とても穏やかに眠っていた。小さな唇から時折こぼれる寝言が、どことなく甘く聞こえてくる。これが生の萌えボイスというものだろうか。ナナたん、萌え。微笑ましい気分になる。

 ……それはともかくとして。

「あれから、数日……ね。ハイスピードで順応しやがって」

 ふと気が付けば、すっかり現状に慣れ切ってしまった。そんな自分自身に、呆れ混じりのため息を吐く僕である。感動のため息かも知れないけどさ。

 とにもかくにも、数日過ごしてみると、それなりに慣れるものなんだねと思うのであった。

 何もかもがメチャクチャになってぶっ壊れた〈大災害〉から、何度か夜空を月が通り過ぎて行った! けれども、僕はまだ生きている。生きているのである。つーか死ねないのである。死のない世界。ハロー、イージーワールド。誰かにぶっ殺されてきた人達が、散々探し求めてようやくたどり着いたシャングリラ! ……かもね。


 前置きはそのくらいにして、ここ数日で変わったことについて整理しておくことにする。

 とにもかくにも、僕の知ってるチッポケな世間は、ここ三日くらいでがらりと姿を変えた。〈大災害〉という最初の異変も、それはそれで大きな変化ではあったけれども。

 一夜過ぎるごとに、僕らの何かが変わっていく。ミクロ的な意味じゃなくて、マクロ的な意味で。

 〈エルダー・テイル〉のご飯があんまり美味しくないともっぱらの噂になってたり、戦闘もゲームとは違うだとか、死んでも実は生き返るのだーとか。とにもかくにも色々と。そこらにいる誰かが、ボソボソと情報交換を続けている。場所を問わず、誰もが念話をし、繋がっている。音声だけのインターネットとでも言うべきか。

 まぁ、飯があんまり美味しくないことについては、半分ほど同意しつつ、僕としては異議を申したいところだ。でも、正直誰かがツッコんでくれるだろうし、面倒なことになりそうな気もするから言わないことにする。少なくとも、フロイドさんの件がそうだった。

 僕とフロイドさんが出会った次の日のことだ。朝食は適当に用意した、たまごサンドと生野菜(マヨネーズも、作ろうと思えば作れるみたいだ)。それを食ってから、マーケットのアイテムを引き上げたり、色々と情報交換をしたりして、しばらく雑談したりしていた。

 マーケットに関しては、今後どうなるのかという不安があったから、アイテムを出来るだけ引き上げておいた。ちょっと前までいらないと思ってたアイテムが、必要になるかも……とのことだ。

 そんなこんなで、フロイドさんたちは知り合いに念話をしたりしていて、誰かと色々と話し合ってた。二人にはそれなりに友達は多いらしい。

 その間に、僕は輝夫と念話をした。輝夫は生きていた。まだ死んでいなかった。ちょっと憔悴していて、話す余裕もあんまり無かったけれども、それでも彼は生きていたし、この世から消えていなかった。「またな」と彼はそう言って念話を切る。僕は安心し切って、安堵のため息を吐いた。

 ちなみに、手持無沙汰なナナは、僕の膝の上に座ったまま背中を僕の胸に押し付けていた。朝のうちに、ナナがスアンさんとお風呂に入ったせいか――昨日に比べると、良い匂いがした。……あれがお風呂かどうか、少々疑問ではあるけれど。

 そんなこんなで、迎えた昼前。

 昼食はどうなるんだろうなぁと思いながら、キッチンに向かった僕を出迎えたのはテンション高めのフロイドさんだった。

「フロイド三分クッキングの時間だよ!」

 どうしてこうなった。

 フロイドさんは、フリッフリのエプロンを着て、フライパンで何かを調理していた。ほんのり漂う甘い匂い。プレーンな香り。何の匂いだろうと、少し離れた場所からフライパンの中身を覗き込んでみると、正体はすぐに分かった。

「えーっと、三分クッキングはともかくとして……それ、ホットケーキですか?」

「そうそう、ホットケーキ。材料があったからね。三分クッキングは……まぁ気分ということで」

 どんな気分だ。

 まぁ、三分クッキングの番組から、ほど遠い場所にいるようなもんだからなぁ。今の僕らは。もうテレビとか観れない。

 いつかどこかで、テレビやパソコンを作れる人が現れるかもしれないけど……いつのことになるのやら。

 それはともかくとして。

「バターやシロップはあります?」

「もちろんさ。ここにちゃーんと」

 唯一の懸念を払拭するように、フロイドさんが指で示した場所には、一つの瓶とバターらしきものが置かれてある。手に取って、軽く味見してみる。バターはバターだった。新鮮って感じがする無塩バター。一方で、瓶の中身は蜂蜜だ。甘みの中に、花の香りが微かにある。美味しい。

 それにしてもまぁ。

「……準備周到?」

「買える分だけ、買いだめしておいたからね。でも、買ったものは使わなくちゃいけない。そういうものだからね」

 たしかに、せっかく買ったものを腐らせる気にはならない。

 先程、僕らはマーケットのアイテムを引き上げるついでに、そこらで店を開いている〈大地人〉から、素材アイテムを買えるだけ買っておいた。

 フロイドさん曰く、「素材アイテムだけ味がある――と考える人が出てくるだろうから、早いうちに売り切れてしまうと思うよ」とのことだ。それもそうかもしれない。スキルで調理されたアイテムには味とか無いし。

 かと言って、料理スキルの謎を誰かから周囲に広めればいいってわけでもないらしくて。

「しかしまぁ、他の人に教えればいいと思うんですけどねぇ」

「やだよ、めんどくさいし、旨味がないし」

 えー。

「いやさ、正直な話、もうちょっとしたら、僕はお店やりたいんだよね。ギルド作ったあとに」

 いきなりの衝撃的カミングアウトだった。

 その話、初耳なんですけど……。

「だから、今言っちゃったら、その……ね、アドバンテージがね……わかるだろう?」

 フロイドさんは、微妙にセコかった。

 たしかにそれなら、上手くいくかもしれないけども。

 その後については……まぁ、面倒な感じだった。美味しいホットケーキを食べた後に、フロイドさんがそう言う話を持ちかけて、スアンさんと小さな口論になって、僕とナナは個室に逃げた。結果としては保留ということにはなったけれども……やっぱり、面倒なことになったかもしれない。

 そんなことがあったため、僕は面倒事を避けたくて、料理スキルの謎について誰にも話さないようにしている。まぁ、話し相手もいないから話しようもないんだけれど。

 それはさておき、とにかく色々と変わっていった。新しい事実が、僕らの上に降り注いだ。新しい世界で、新しい人々に出会い、新しい事実に直面する。毎日が発見だ! とハシャげれば、それはそれで幸せなのかもしれない。僕には無理だけどね。


 それにしても、ここ数日がどこかで聞いた何かに似ているなーって気がする。ドタバタと新しい何かに振り回される、僕ら冒険者たち。〈エルダー・テイル〉という新しい世界で、新しい事実が降ってきて、新しいものに翻弄されている。

 何に似ているかなーと首を傾げたところで、ピーンと来た。あれだ、あれ。あれに似ている。ヒカリヨアレカシとか、神は休んだとか、そういうの。齧る程度に読んでそれっきりの、旧約聖書に出てきたやつ! 創世記の天地創造!

 これは、七日間が終わった直後だ。カミサマに産み出されたニューヒューマンは、光と、昼と、夜と、空と、大地と、海と、植物と、太陽と、月と、星と、魚と、鳥と、獣と、家畜に翻弄される。創造主に色々と訊こうにも、カミサマは休んじまって起きてこない。それに似ている。

 ようするに、僕らは最初の人類と同じように、チュートリアルのない世界にやってきたってことだ。ルールブックもないのに、自由すぎて何をすればいいのかわからないって感じ。アダムとイヴに同情するよ。

 とにかく、僕らの世界は、〈エルダー・テイル〉になった。厳密には違うかもしれないけれど、来てしまったものは仕方がない。

 冒険者にだって、アダムとイヴと同じように生きることから始めればいいのだ。幸いにして、この世界は死のないイージーワールド。まぁ、どうにかなるさ。

 以上、僕の脳内整理終了! ぶっちゃけ、ほとんど何も整理できてないかもしれないけど、細かいことは気にするな! 気にしちゃ負けなのだ!

 あと、散々喩えに使っておいて、今更こんなことを言うのもなんだけど、僕はアダムとイヴを信じちゃいない。猿から進化したに一票。うん、これはすごくどうでもいい。ええい、とにかく脳内整理おしまい! 以上! FINE!


 けれども、僕らの物語は動いているし、この地球はブレーキに足をかけることもなくグルグルと回っている。スピンアトップ、スピンアトップ、スピンスピンスピン――回れよ独楽よ、回れよ回れ。僕の好きな小説『地球儀』にも書いてあったように、僕らの世界は飽きることなく回っている。時間の海の中を延々と。ひょっとしたら踊っているかもしれないけれども。

 そうだ。僕らのいるこの世界は、自由気ままに踊っている。ステップもリズムも、何もかもが出鱈目なまま。広大であやふやで、何もかもがガバガバな現実世界と同じように。ぶっ壊れて、どこかでキッチリ収まらない。そんな世界。

 それを、ますます確信させる出来事がやってきた。

 今日から二日後……じゃなくて、たった今。

 現実逃避気味に、少し前のことをバラバラに組み立てながら思い出していた僕に、再度現実が叩き付けられる。ぶっ壊れた世界から、唐突に降り注いだ新しい事実。面倒事。湧き上がる安堵感。耳元から聞こえる、友達の声。

 ――念話越しに、『彼』は言う。

「……もしもし、シンイチ?」

 もう聞くことがないかもしれないと思ってた彼の声。僕は頭の中がグルグルと混乱して、何もかもを滅茶苦茶にされながらも、湧き上がる安堵と、こみ上げる涙を止めることが出来ない。


 そうして、この日、『麟太郎』が僕らの前に姿を現した。

 ……『幽霊』の女の子を連れて。


 地球は回る。独楽みたいにグルグルグルと。

 ――自分がぶっ壊れることを自覚しないまま、独楽は回っている。スピン! スピン! スピン! でも、少しくらいは止まってくれたって良いじゃないか。ねぇ。

 というわけで、第二章です。

 んでもって、外伝『僕と駒鳥と、呪いの屋敷。』の完結を差し置いて、麟太郎と『彼女』の登場です。

 そこで何があったかは、こちらでサラッと書くつもりではありますが、いつか『僕と駒鳥と、呪いの屋敷。』単体でも、しっかり書ければ良いなと思ってます。


 さて、今回から、再び彼らの物語が始まりましたが、次回はいつになるのやら……多分、不定期更新になりそうです。一体いつ、完結できるのやらと不安です(一応、全26章で完結を予定しています……本当に完結できるんだろうか)。

 とにもかくにも、次回を気ままにお待ちください。

 ではまた。

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