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永遠になれない僕たちは、  作者: 栗しんや
第一章『そして、彼らは駆け出すように。』
10/13

 久しぶりに更新。

 気が付けば、僕らはビルの屋上に立っていた。

 ビル――と言っても、至る所が罅割れ、その隙間から草が生えているような風化した建物だ。

 そこに、僕とナナがいた。今もナナは僕の身体を掴み続けている。もしこの状態で、無理やりにでもナナを引き剥がして逃げるように言ったらどうなっていただろう。……冷静になって考えてみると、さっきのは良くない考えだったと思う。

 ――まぁ、それはさておきとして。

 今の僕らの目の前には、二人の〈冒険者〉がいる。

 一人は、狐耳とふさふさ尻尾を生やした、魔法少女とでも言うような外見の女だ。もう一人は、無精髭を生やした、煙草が似合いそうな渋めのオジサンだった。

 今この場にいる、〈冒険者〉二人。どちらにも見覚えがない。僕が忘れたわけじゃないのなら、初対面のはずだ。

「……誰?」

 だから、ポツリと呟くように問いかけるのが精一杯だった。

 いや、本当は冷静さを取り戻しつつあって、僕を追ってきた彼らの手先か、とか、それとも僕らを助けてくれたのか、とか、色々と浮かんできたのだけれども。

 ……まずは、彼らが誰なのか知りたかった。

 そんな僕の問いかけに、魔法少女は「どうする?」と言わんばかりに、オジサンは頬を引っ掻いて困ったような顔をした。どうも、何を言おうか少しだけ迷っているらしい。

 しばしの沈黙。腕の中のナナは、僕と同じように二人を見つめながら、色々と混乱中である。

 ジッと見られていることに気が付いたオジサンは、コホンと空咳を吐くと――。

「――困ってそうな青少年を助けただけの、普通のオッサンだよ」

 苦笑しながら、そう言ったのだ。


「――今の私は、女よ」

 四人を交えた自己紹介の中で、彼――いや、彼女と言うべきか――スアンさんはそう言った。

 場所は変わって、ナナの部屋。立ち話もなんだからと、追っ手を欺きながら戻ってきた。そこまで遠くもなかったし、二人の協力もあって簡単に帰ることが出来た。

 そして、今は全員の自己紹介だ。

 僕とナナの番は終わり、今は『オカマ』の番だ。

 本人は『オカマ』であることを否定しているけど、その口から出てくる声の響きが『オカマ』であることを証明している。

 ここに来るまでに聞いたスアンさんの声は、どれも妙に野太い声だった。外見は女の人にしか見えないのに。

 おそらく、俗に言う女体化ってヤツだ。TSって初めて見たよ。

 しかも、おっぱい大きめで、ナイスバディで、狐耳という大人って感じの体型に、魔法少女という一見合いそうにない衣装がマッチしている。美女とでも言うべきだろうか。……うん、まぁ、声紋はどうしようにもなかったみたいだけど。

「なんか言った?」

 とか考えている内に、ギロッとスアンさんに睨まれた。何も言ってないんだけど、ひょっとして頭の中で呟くのも駄目だったんだろうか。

 しかしまぁ、結構鋭い視線だ。「水差すなよ」って言われてるみたいだ。おぉ、怖い怖い。そんなに怖くないような気もするけど。……でも、とりあえずは、首を横に振っておくことにする。

「パッと見は、それっぽく見えるからねぇ……。僕も最初はわからなかったよ。スアンはもっぱらチャット会話だったし」

 僕らを助けてくれたもう一人のオジサン――フロイドさんが、スアンさんに睨まれている僕をフォローするように言ってくる。

「……だって、聞かれたくなかったのよ」

「ま、自覚してるのなら、そう思うのも無理はないけどね」

「蝶ネクタイ型の変声機があれば……こうはならなかったかも。あれで、ゲームしてれば今頃……」

「どうだかね。……モニターの向こうにいる、僕らの肉体だけを呑みこんだだけかもよ。装飾品なんていらねーとばかりにさ。そうなってたら、声まで女だと偽ってたのかよ、って言われる羽目になると思うけどね」

「ボッチだから関係ないですよーだ」

 なんというか、仲良さげな感じがする二人である。恋人同士――なんて真偽のよくわからない冗談はともかくとして、少なくとも友達に近い関係ではあるようだ。

 ちなみに、なぜ、スアンさんがオカマであることをカミングアウトしたのかについては、部屋に入る時につまずいたスアンさんが、やけに野太い声を上げていたから、とっさに僕が「男?」と問いかけてしまったからなのだが――まぁ、それはさておきとして。

「……それで?」

 不信感を込めた声を唇からこぼす。

「それでって?」

 スアンさんが、僕の言葉を促してくる。口から出てきそうなのは、たった一つの問いかけだ。シンプルかつ難解のような疑問について答えて欲しかった。

「どうして……僕らを助けたんですか?」

「面白そうだから」

 …………えぇー。

 マジかよ。なんじゃそりゃ。そんな気まぐれで、僕らは助かったのか。助けてもらっといて言うのもなんだけど、なんか嫌だなぁ。でも、これも仕方のないことって受け止めた方が良いのかもしれない。助かったのは事実なんだから。

 呆れたけど。拍子抜けしたけども!

「……シンイチ」

 脱力しつつある僕に、ナナが不安そうな声をかけてくる。おっといけないいけない。慎重にならないと。

「ところで、シンイチ君……だったっけ」

 僕の方を向いて眉をひそめながら、フロイドさんが問いかけてくる。メニュー表示で僕の名前を再確認したらしい。

「そこの彼女、ずーっと抱き締めたままだけど良いの?」

 ……うん、まぁ、ナナの身体をギューッと抱き締めてるままの僕に、慎重も何もないんだけどさ。内面はともかく、外面は緊張感もまるでない。

「良いんです」

「良いの」

「……さいですか」

 フロイドさんの問いかけに、僕もナナも何一つ問題ないとばかりに答える。この一瞬で結構図太くなりましたね、ナナさん。不安をどこに捨てたんだ。

 そんな僕らに、フロイトさんは微笑ましいものを見るような、生温かいような、やれやれと呆れているような、色々なものがこもってそうな視線を向けてきた。無理もない。

 閑話休題。

 とりあえず、お互いの事情というか情報交換みたいなことをした。

 フロイドさんとスアンさんは、僕らと同じように〈エルダー・テイル〉のプレイ中にこっちの世界に連れてこられたらしい。新しいパッチの適用を待ちつつ、二人でパーティを組んでノラリクラリと遊んでいたらしい。

 そんな時に、この災害に巻き込まれ、色々とあたふたしつつ、一日目を宿で過ごしたらしい。……二人の話を聞いてて、帰れないことについての悲壮感がないように思えたけども、ツッコまないことにしておこう。

 僕も人のこと言えないんだけどさ。

 あとは、この世界は〈エルダー・テイル〉をネット小説にありがちなVRMMOにした感じだってことと、死んでも生き返る云々って話はした。前者についてはそういう風だって思っといた方が楽だ。あくまで、ここは現実世界だと思うけど。

 とりあえず、僕らが話し合ったのはそれだけだ。あとは細々と世間話的なものをいくつか。

「面白そうだからという理由で、僕を助けたんですか? 本当に?」

「半分、本当さ。〈大地人〉の幼女を抱きかかえて逃げ続けてたからさ、つい魔がさして助けちゃったんだよ」

 例えばこんな感じ。

 助けてくれたのはありがたいけど、なんだかしょーもない感じがした。少しだけ泣けそう。

 そうして、色々と会話が進むうちに、ナナの不安が収まっていった。雰囲気から察して、安心してきたらしい。コミュニケーションって大事だね。

 僕も一安心だ。

 ……と思っていたら、お腹が減ってきた。

「……そう言えば、お昼はとっくに過ぎてるのよね」

 ふと気が付いたようにスアンさんが声を上げる。そういえばそうだった。昼前に必死に逃げまくって、一息ついてからしばしの談笑。それなりに時間は経っている。

「……また、アレを食べなきゃいけないの?」

「仕方がないさ。食えるだけマシなんだから」

 昼飯をどうしようかと考えている僕をよそに、スアンさんとフロイドさんがズーンと鬱々とした表情を見せていた。お腹が減りすぎて死にそうなのかな。或いは、湿気た味無し煎餅が嫌なのかな。普通に調理すればいいのに。

「……シンイチ」

 なんてことを考えていると、ナナが僕の名を呼んだ。

「ん?」

「……あれ、作って」

 ナナを見つめてみると、物欲しそうな視線が返ってきた。お腹減ったと言わんばかりな感じだ。大体察したよ。

 しょうがない、と立ち上がる。「どこ行くの?」とフロイドさんの声が聞こえたから、「お昼ご飯の用意してきます」と答えて、部屋を出た。

 材料は、まだ残っている。

 僕は、腕をまくり始めた。


 ――それから、しばらくして大人二人が『味のある料理』に驚くという光景を目にしたのであった。


 ……そんなに、特別なことしたっけな?

 執筆が難航してて、ようやく次の話が書き終わったので投稿しました。

 次回がエピローグになる予定だったんですが、結構量が増えたので分割しました。

 次の次の話が、第一章のエピローグになる予定です。

 ……ようやく、一区切りいけそうです。


 それでは、次回の更新をお待ちください。

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