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永遠になれない僕たちは、  作者: 栗しんや
第一章『そして、彼らは駆け出すように。』
1/13

プロローグ

 というわけで、またこっそりと。

 この話は、拙作『僕と駒鳥と、呪いの屋敷。』に繋がる『本編』のような立ち位置の物語です。

 生暖かく見守っていただければ幸いです。

「スピンアトップ・スピンアトップ・スピンスピンスピン――回れよ独楽こまよ、回れよ回れ」

 ――牧野信一著『地球儀』より引用。


 僕らは、同じ月を見つめている。

 祭りの終わり。ある程度大きな物事が通り過ぎて、春から夏が来て、夏から秋になって、冬になろうとしている。

 そんな秋の夜に、僕らは住処にしている建物の屋上から月を眺めている。街でのデートを終え、屋上のタイルに寝転がって、二人並んで空を見上げている。

 夜空には、大きな月と、幾億もの星が浮かんでいて、そのどれもが自身の存在を主張している。ここにいると言わんばかりだ。

「……シンイチ」

 彼女が僕の名前を呼ぶ。シンイチ。それが僕の名前だ。その名を右隣にいる彼女が呼んでくれる事実に、何度目かわからない安堵感を抱く。

 僕は、夜空から視線をずらして、すぐそこにいる彼女の横顔を見つめる。

「どうした? ナナ」

 僕は彼女の名前を呼ぶ。ナナ。数か月前に出会った少女。僕より7歳以上も年下で、けれども一緒にいて安心できる女の子だ。

「ううん、呼んでみただけ」

 ナナは、そう言って微笑む。嬉しそうに、おかしそうに。まるで幸せがこぼれ出すような、そんな笑顔のままで。

「そっか」

「うん」

 僕らは、そんな風に相槌を打ちながら、夜空をただ見つめている。

 月と星の明かりが綺麗だった。どこからか聴こえてくる虫の音と、枯れていく草の匂いが心地よかった。頬を撫でる風がくすぐったかった。

 そして、

「シンイチ」

「うん」

「シンイチ。……ここにいる?」

「ここにいるよ。ナナは?」

「私も……ここにいる」

 お互いに、存在を確かめ合う。

 僕は、ここにいる。

 ナナも、ここにいる。

 どちらからともなく手を繋ぎ合う。ぎゅっと包み合うように握り合う。小さな彼女の手が温かくて、柔らかくて、触っているだけで幸せになる。

「ねえ、ナナ?」

「どうしたの? シンイチ」

 幸せだと思ったから、僕はナナに問いかける。

「――僕は、幸せな夢を、見ているのかな」

 ナナがいて、みんながいる。

 その中に僕もいて、嬉しくて、楽しくって、涙が出そうな程に幸せなんだ。

 だから、本当の僕は夢を見ているんじゃないかって。

 夢だから、幸せなんじゃないかって。

 そう、思ってしまったから。

「夢じゃ、ないよ」

 そんな僕の不安を、ナナは否定する。ハッキリとした声で。僕に言い聞かせるような力強さを秘めて。

「シンイチ」

 そして、ナナは僕の名前を呼んでキスをした。

「ナナ」

 ソフトなキスを終えて、僕らは互いの顔を真正面から見つめ合う。やがて、どちらからともなく抱き締め合って、互いにキスをし合う。

 僕らが何度もしてきたように、唇を寄せて重ねる。ソフトなキスを、何度も、何度も。バターのように溶けてしまえば良いと願うように、キスをした。

 夜空に浮かぶ月の下。

 そこには、かつてMMORPG〈エルダー・テイル〉の架空の街でしかなかった〈アキバの街〉がある。

 そんな街の中に、僕らの居場所は出来た。

 ふと、僕は漠然と数か月前のことを思い出す。

 あやふやなバランスで保っていたものを、自分の手で打ち壊してしまった時のことを。

 砂漠のど真ん中に投げ出されたみたいに、僕を含めた人々の何もかもが変わってしまった日のことを。

 その日をキッカケにして、僕と僕らと彼らが、駆け出すように過ごし出した数か月のことを。

「ねぇ、ナナ」

 全てが始まったのは、僕らが〈大災害〉と呼ぶようになった出来事が起きた日からで。

「好きだよ、ナナ」

「知ってるよ、シンイチ」


 ――そして、その日に、僕はナナと出会った。

 『ログ・ホライズンTRPG』のルールブックを買って、チマチマ読んで、セッションで楽しみたいと思いつつも、なかなか機会が……。

 なんてことを思いながら、ペースやスケジュールにムラがありつつもチマチマと執筆中です。

 近々、次の話を投稿します。

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