春を告げる者
阿求「はい始まりました。阿求の駄弁りその二」
霊夢「タイトルあったんだ」
阿求「五分前に決めました」
霊夢「言わなくてもいい事実を。なんであんたは、そんなにも素直なのかな?」
阿求「それだけが、取り柄ですから。真っ黒は霊夢さんとは違って」
霊夢「ああぁぁぁん! 誰の脳細胞が真っ黒だって!」
阿求「そこまでは言ってないですよ。どこをどう聞いたらそうなるんですか?」
霊夢「うるせぇよもやし、もやし炒めにすんぞ」
阿求「まさかの悪口! 二回目して早くも不仲に!
ちょっとちょっと、どうしちゃったんですか? いったい。何だかノリが某漫画みたいになってますよ」
霊夢「別二損名事内出巣世」
阿求「どこの暴走族だよ!! つーか今の時代、そんな古くさい人いませんよ!」
霊夢「古苦内夜」
阿求「何でもかんでも漢字にすればいいってゆう訳じゃありませんよ! ぶっちゃけ何を言っているのかわからないですし!」
霊夢「博麗霊夢、夜露死苦」
阿求「……いや、それはわかりますけど。霊夢さんって、何歳ですか?」
霊夢「乙女にそんなこと聞くもんじゃないわよ」
阿求「戻った」
霊夢「あれ疲れるからね」
阿求「ならやらないでください」
霊夢「でも不思議よね。一昔前は、暴走族っていったら、リーゼントに膝まである革ジャンに、背中に漢字で夜露死苦が基本の中二病だったのに。いつの間にいなくなったのかしら?」
阿求「現代の暴走族は、チャライ人たちばかりですからね」
霊夢「ルックスは上がったかもしれないけど、怖さ半減って感じだし」
阿求「信号もきちんと守ってますし」
霊夢「音と二人乗りを除けば、単なる普通のドライバーよね」
阿求「そこら辺に、現代らしさを感じますよね」
霊夢「昔に比べたら、大したことないかもね」
阿求「でも迷惑ですよ。最近は私の安眠を邪魔しますし」
霊夢「阿求も悩んでるんだ」
阿求「いえ、作者が」
霊夢「何で阿求が作者の代弁を?」
阿求「言い忘れてたんですけど、私と作者は考えを共有してるんで、私の言葉=作者の考えでもあるんですよ」
霊夢「へ〜。話てる時は何も違和感がないけど」
阿求「八割方無視してますから」
霊夢「そりゃまた気の毒なことで」
阿求「おっと、そろそろ収録も終わりの時間ですね」
霊夢「だから音声ないから」
阿求「気分だけでもパーソナリティー」
霊夢「はいはい」
阿求「霊夢さんも呆れてきたところで、また次回!」
霊夢「またね〜。
…………阿求、今回のギャラは?」
阿求「霊夢さん、会話筒抜けですよ」
霊夢「あっ、やばっ」
霊夢サイド
「道を開けなさ〜い」
霊夢は妖精に命令しながら、追跡魔具用に改良してある札で、妖精をバッタバッタと薙ぎ倒していく。
レミリアはその後ろを悠々と飛んでいる。
「まるで虫ね。さながら霊夢は、殺虫剤ってところかしら」
その言い方は失礼なんじゃないかって言うくらいの、超上から目線でものを言う。が、霊夢は上機嫌なので、鼻唄まじりに言う。
「誰が殺虫剤よ」
「そんな楽しそうに返す言葉ではないと思うけど。楽しいの? 霊夢」
霊夢は一度考えると、首を横に振った。
「楽しいじゃなくて、爽快ってだけだと思うわ」
「楽しいじゃなくて嬉しいか。どちらかと言うとそっちみたいね」
「あんた私の話聞いてた?」
霊夢が如何わしい顔つきでレミリアに聞くと、レミリアは目を積むって肯定する。
「大丈夫だよ、ちゃんと聞いてたから」
霊夢は「本当に?」と言うと、レミリアが返事をしないので前を向くことにした。
数分後。何十匹と妖精を狩った霊夢たちは、開けた場所に出た。
「待ってたで〜」
「あんた」
香林堂の居間。そこには、紫と阿求と映姫がいた。
店の方には、霖之助が商品にかかった埃を掃除している。
紫たちは、お茶を啜りながら、スキマカメラで試合状況を見ていた。
「やっと本格的に始まりましたね」
阿求がカメラを見ながら、紫たちに言った。
「そうね。やっと」
紫は考え深そうな顔をして、それらしい口調で言った。
「しかし紫。なぜあんなことをしたのですか?」
映姫がお茶を持ったまんま、お茶に立った茶柱を見て言った。
「なんのことですか?」
綺麗な笑顔を浮かべる紫。映姫は真顔で追及を続けた。
「惚けないでください。あのことです」
「…………」
二人の間に沈黙が走る。阿求がその空気に耐えかね、挟むつもりもなかっただろうに、結局口を挟んだ。
「まあまあ、紫さんにも何か考えがあるのかもしれませんし」
「ですが阿求」
「このほうが、皆本気になりやすいから……ですかね」
なおも追及しようとした映姫に、理由を言った紫。たが、真実かは定かではない。
「だからこその、あの約束ですか?」
「ええ、その通りです」
映姫は溜め息を吐くと、やれやれと頭を振った。
「わかりました。今回はあなたの考えに乗りますよ」
「ありがとうございます。……絶対に退屈はさせません」
「待ってたで〜」
「あんた」
霊夢たちが出会ったのは、春を告げる妖精、リリー・ホワイトだった。
「やっと来なはったか。遅いわ〜ほんま」
「なんであんたがここに?」
腰に手を当てて呆れていたリリーに、もっともな疑問をぶつけた。
「阿求が言ってたやろ、ステージのボスを倒したら終りって」
「つまり、お前がここのステージのボスって訳ね」
霊夢の後ろから出てきたレミリアは、霊夢の前に出てきた。
リリーを見るレミリアの目を見て、霊夢は少したじろいだ。レミリアは、全てを葬る鬼の目をしていたからだ。
そんな目を真っ正面から受け止めるリリー。その表情に、恐れはなかった。
「倒せたらの話や」
「言うわね」
レミリアが大人げなく魔力を開放する。このとき、霊夢はある勘違いをしていた。相手は妖精、しかもリリーだ。こちらには、夜の王にして鬼のレミリアがいる。それに加え、自分もそれなりに強い人間だ。レミリアに劣る部分はあるが、妖精程度に負けるこのなどない。
だが、それこそが慢心だった。
霊夢は知らないのだ。妖精の、可能性とゆう名の力を。
「霊夢たち相手に手加減なんかせえへんで、始めっから全力や!」
そう言うと、リリーの六枚の羽が桜色の光を纏った。その羽で、リリー自身の体を包むと、それが弾け、光輝く鳥の羽が散ると共に、中から黒くなった服を着たリリーが現れた。リリーの羽は翼のなり、桜色に輝く。
「いくで」
霊夢は戦慄した。リリーが強くなったことにも驚きはしたが、それよりも驚愕だったのが、リリーが放ったレーザーの威力だった。
リリーが手を前に翳すと、桜の花びらのような魔方陣が展開した。その中心から放たれる桜色の高出力レーザーを、霊夢とレミリアは躱す。しかし、その余波で大きく空中に投げ出された。その後に続いた大爆発でも、風圧に押され、顔を腕で覆った。体制を立て直し、放たれた方向を見ると。
「なっ!」
なんと、壁が大きく崩れ、地面が抉れていた。
たとえレミリアが、グングニルやスカーレットデビルを使ったからといって、一発でここまでの惨状にはならない。かも……。
けれどたかだか妖精風情が、ここまでの威力の技を使うなんて。
「やっぱりこの状態は慣れへんわ、攻撃があたらん」
「春の力か」
レミリアの呟きに、霊夢思考を巡らせる。
「もしかして……春を集めたの?」
「もしかしなくてもそうでしょ。でなきゃ、あそこまでの力はでないわ」
厄介なことになったわね。レミリアの言ったことが正しければ、かなりの春がリリーに集まってるはずね。
「考えてはるとこ悪いけど、隙はあたえへんで」
リリーは翼を縮めると、瞬時に翼を広げた。
「春風 チェリーブロッサム!!」
大量の桜の花びらが展開した。その一つ一つはとても細かく、とても避けきれる大きさと量ではなかった。
「これは……不味いわね」
さすがのレミリアも、これには驚いたらしく、冷や汗をかいている。
「レミリア、こっちに!」
「うわっ!」
霊夢に引っ張られて、変な声をだす。霊夢はレミリアを抱くような体制になり、右手を前に翳す。
「夢符 二重結界!」
名前の通り二重に展開した結界が、霊夢たちを包む。それをリリーの攻撃が纏うように襲う。
「くっ……うっ……」
結界内で、霊夢は苦い顔をする。
なんて威力。このままじゃ結界がもたない。
「霊夢! 私の魔力を感じ取れ!」
一瞬ハッとすると、レミリアに言われた通りに、目をつむり魔力を感じ取る。
「いい子ね。……いくわよ」
レミリアが魔力を高める、それに霊夢が波長を合わせる。すると、結界が紅く染まり拡張した。
「転換。紅夢 鬼神結界!」
結界は元の形を失い、新たな形に作り変わった。もうチェリーブロッサムの攻撃は、完全に防がれている。
「はああぁぁぁ!!」
レミリアがさらに力を加えると、結界は弾けとんだ。
「拡散結界!」
それに合わせて、霊夢がスペルを唱える。弾けとんだと思った結界は、形を留めたまま、幾重にも拡散し、そのままチェリーブロッサムを弾き返し、リリーに迫った。
「春の力を嘗めるでないで」
リリーは焦ることなく右手を前に突き出す。
すると、弾けとんだはずの桜たちが、リリーを守ように楯になった。
「その程度の攻撃で、春を止められると思っとるんか?」
「思ってないわよ!」
ハッとして、リリーは上を見上げる。すると、上空には霊夢がいた。
「宝具 陰陽鬼神玉!」
霊力により巨大化した陰陽玉が、リリーに直撃。チェリーブロッサムの防御網を突破した。
そのままの勢いで、リリーは陰陽玉と一緒に地面に叩きつけられる。
「やった?」
霊夢が不安げに訊ねる。だが、レミリアは首を横に振った。
「いや、まだよ」
その瞬間、リリーの魔力が急激に増大した。陰陽玉が砕け、見ると、リリーの翼が大きくなり、さらに輝きが増していた。
「うそでしょ……」
「これは冗談抜きに、辛い状況になってきたわね」
そして、リリーは静かに顔を上げた。
阿求「次回は魔理沙さんです」
霊夢「お楽しみに」