第五話改め番外編「委員数部分解(いいんすうぶぶんかい)」
はい、皆さん初めまして。一年三組委員長の長瀬康子です。 え、なんなんだお前、ですって?何言うんですか。 今回のとある案件の調査報告じゃないですか。ひょっとしたらお忘れですか?……まあいいです。
とある案件――「奇怪研究部」実態調査は、現在進行形です。「調査なう。」って感じです。
そもそも調査が始まったきっかけは、元生徒部部長である河原田望が、あれだけ猛威をふるっていたあの人が、実態不明かつ意味不明な無名の謎集団「奇怪研究部」によって「消された」ことが始まりでした。
正直、学校的にも困った存在である河原田さんを、委員長連盟、またの名を「風紀部」も、それなりに粛清しようと思ってました。といっても、学校の「女王」である彼女に進言するわけですから、そりゃもう穏便に対応しようとしましたさ。
けれども、けれども彼らはぶっ潰して行きました。まるで、台風でも通ったかのように……。 そんなわけで、我々としても河原田という目の上のたんこぶが消えた代わりに、こんどは奇怪研究部というアンノウンが堂々と居座りはじめたのです。
今までは「非公式」だからある程度はスルーしてたのですが、今回のこれは野放しには出来ないと考えたのです。
そこで、奇怪研究部の「越権行為」、つまり今回の行動を審判するべく、調査をおこなうことになったのです。
本気を出せば、奇怪研究部なんていう謎が謎を呼ぶ組織を消し去ることもできるのですが、厄介なことにこの部活、無駄に伝統があるのです。
あまり詳細が知られていないので、どんな繋がりがあるかわかりませんからねぇ。
そんなわけで、調べ始めたのですが……。どういうことか図書室にある我が校の「非公式」の歴史書に、奇怪研究部の名前が乗って無かったんです。
つまり、最近出来た部活のようです。
だとすると、今回の件で行使されたコネはどこから手に入れたというのでしょうか?
最近出来たというのなら、部員に聞けばいいのでは? そう思った私は、どういう因果か、クラスメイトで奇怪研究部に所属する桐谷君に接触することにしました。ここからは、その一部始終を記すことにします。
チャイムが鳴りました。本日最後の授業はようやく終わったようです。
私はため息をついてしまいました。普段はこんなことはないのに……。
そもそも、桐谷君と私にはなんの接点もないんですもの。どう話せば良いか全く検討がつきません。
ぼーっとしていても埒があかない。そう思った私はターゲットの方に目をやりました。
桐谷 駿。クラスではそんなに目立つ子ではありません。ただ、そんなに影が薄いわけでもなく、クラスの子にその名前を聞いてみると「ああ、あの子か」と言われるぐらいには識別されているらしいです。
彼の外見的特徴を挙げると、髪は癖っ毛なのか寝癖を直してないのかくしゃっとしていて、顔はまさしく平凡といった感じで中肉中背の男の子です。
あまりじっと見ていると変な誤解を招くので行動を実行に移すことにしました。「桐谷君」
「へ?」
「ちょっとたなびたいこと…もとい話したいことがあるから来てほしいんだけれど」
そう言うと、ほぼ帰りかけてた生徒たちがざわ…ざわ…とひしめき始めました。うわぁ…そんなつもりないのに…。
肝心の桐谷君はそんな空気を気にしている様子もなく、「いいけど?」といいました。教室を出るなり桐谷君は、どことなく嫌そうな顔をしました。
「委員長、話したいことって?」
「うん…。ちょっと聞きたいことがあるの」
私は深呼吸をして言いました。
「奇怪研究部って何なの?」
「僕にもワカンネ」
………………。……はぁ?
「え、どゆこと? 意味が分からない。アイドントアンダスタン!」
「お、落ち着きなって。何故に英語!?」
「だってあなた部員でしょ!それなのに分からないって……」
「いや、だって、入部して1ヶ月も満たないもん」
そりゃそうかもしれないけど、こっちもはいそうですかとあっさり引き下がれないのです。
「じ、じゃあ、何か部活について分かることある?」「うーん、そうさなぁ…」お年寄りみたいな思案の仕方をして、
「……とりあえず、変な集団ってとこかな」
どや顔だった。
私はわなわなと震え、
「そんなの誰でも分かるわぁーーー!!」
思わず叫んだ。
桐谷君は一瞬キョトンとした顔をして、突然クスクス笑いだしました。
「な、何?どうしたの」
「いや、委員長は面白い人だ、とおもってさ」
「……意味分かんない」
「今まで、委員長とは話したことがなかったし、堅物なのかな? って思ってたんだ。でも、実際は気さくで明るい雰囲気だし、それに……」
「それに?」
「それに、可愛いし……」
「……なぁっ!?」
「ふふ、それじゃ……」
「あ、ちょっ……」
それだけ言って彼は去って行きました。
不意打ちに「可愛い」と言われて動揺してしまいました……。廊下でそんなこと言うなんて、頭がフットーしそうだよぉ……。不覚にもドキドキしてきました。 ボーッとしていた私ですが、ハッと我に返り、
「結局、はぐらかされたままだったぁーーー!?」
そんな結論に至りました。
……このように、彼女、長瀬康子は筆記を続けていたが、ここを境に文が途切れている。
普通に考えれば、恥ずかしくなって、中断したともとれるが、
彼女は何者かによって拉致された、という事実を加えると、意味が違って見えるだろう。
……どういう因果か、犯人がさらった際の言葉が記録されている。
『今までスポットの当たってないやつが急に当てられたら、どうなると思う? 答えは簡単、ろくな目にあわない。ましてや、恋愛フラグ的なものをたてようものなら、うっかり死亡フラグに差しかわる可能性がある。君にすればそんなつもりがなくても、「物語」に関わってしまった時点でこうなることは決まったのだよ。だから、私を恨まず、奇怪研究部を恨まず、
自分の運命、とやらを恨むといい』