第二話もとい第一章 非正義部員(ひせいぎぶいん)其の1
早速入部した僕であるが(考えてみれば弱みを握られたみたいな感じ)、ふと時計を見てあることに気づく。
「もう5時か…。」
もう帰らなければならないのだ。何せ、今日は塾の日だ。帰る支度をしようとすると、他の三人がスタンディングオペーションの体勢になっていた。
「なにやってんすか。」 「え、なにって一本満ぞ…」
「それ以上はアウトでしょ!」 僕、不満足だった。
次の日、放課後。とりあえず部室へ向かう。先輩方三名は来ていたようだ。
「こんにちは。神威先輩、室井先輩、風き…ゆ、ゆーこちゃん…先輩。」
「…私の場合は、先輩、いらない。」
そういって、妙に頬を膨らませるゆーこちゃん先輩、もといゆーこちゃん。
「そうだな。あだ名にちゃんまでが正式名称なのにその上に先輩とつけるとは、どこぞのテニス漫画じゃあるまいし。」
…おいおい。
「そういえば部長。今日は何をするんだ?」
室井先輩が話を進める。 「ふむ、ちょうど一年が来たところだし、ちょうどいい。」
「いや、一年は一人しかいないけど…」
「こまけぇこたぁいいんだよ!今日のテーマは…ゆーこちゃん、例のものを」 「…?…私、知らない」 「ほら、アレだって!」 「……。…ああ。」
いかにも納得したように手のひらの上にポン、と拳を置く。しばらく戸棚の方をガサゴソと調べ、持ってきた。
「…はい。」
「おう、ありがとう。…ってこれ、ねこのぬいぐるみじゃねぇか!」
「…違うの?」
「全然ちがうわ!」
この部活は意志疎通がままならないようだ。「…可愛いのに。」といいながらゆーこちゃんはぬいぐるみを抱きかかえ始めた。
部長は溜め息をついて、懐から何かを取り出した。よくみると、日曜日の朝に出てくるヒーローや、少年漫画に出てくる登場人物が写っていた。
僕と同じことを考えたらしい室井先輩が、
「一体これらがどうしたんだ?」
と尋ねた。
「ご存じの通り、こいつらは『正義の味方』だ。昔から日本では『勧善懲悪』ということばがあるように、よいことをする事を良しとする考え方があるのだ。そこでだ…。今回調べる事にした『奇怪』なテーマは…『正義』だ!」
「どこが、そこでだ、なんですか…」
むちゃくちゃ理論が飛躍していた。
「とにかく、俺たちが調べるのは『正義』だ!」
全員が(ゆーこちゃんは無表情でねこのぬいぐるみのてを「うー!にゃー!」といいながら動かして遊んでいる。)呆れた目を部長に向ける。
「第一、『正義』のどこがいけないんです?『かんぜんちょおあく』?って言葉があるんですから、なにも奇怪なことなんて…」
「『勧善懲悪』な。しかし思ったことはないか?戦隊モノは自分たちが正義だといっているが、怪人一体を相手に3~6人で戦っているだろう。考えようによっちゃ集団いじめではないか。」
「いや、確かにそうでしょうけど、それだけ敵が強いって事では…」
「では、歴史的側面から考えてみようではないか。例えば戦国時代。多くの武将達が自分たちの正義のために殺し合い、騙し合い、人々を苦しめている。戦国時代ブームとか言っているが、所詮美化しているに過ぎない。」
「それはそうですけど…」
そういわれてみるとそうかもしれない。つまり、『正義』≠正しいこと、だ。確かに正しい正義も存在するんだろうが、全ての人がその『正義』に賛同できるとは限らないということだ。
「これで異論は無いな?あったらいってほしい。」 全員異論はなかった。
「では、早速、『正義』についての『研究』を『開始』する!」
こうして、僕の部員として初めての活動が始まった。はたして、この『研究』は僕に何をもたらすのか? 続く。 えっ!?続くの!?