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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第八章 魔法王国カスタの遺跡
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12

 革袋の口を結わえていた紐が切れ、水が床に流れ出る。

「わたしはっ、尻尾を巻いたりなんかしないわっ!」

 ニーナミーナはぐっ、と顔を上げると、片手を腰に当て、つかつかとアーカイエスの間近へ寄った。

「誰が逃げて帰るもんですかっ! あんたの皮肉くらいでっ! 私が荷造りしていたのは、明日にでもカスタに行けるようによっ!」

「ほお。先程とは言う事が百八十度違うが?」

「あんたが何を聞いたのか知らないけどっ、私はランダスに帰るなんて、一言も言ってないわよ?」

 仰天しながら、嘘付け、とジェイスは内心で呟く。

 アーカイエスは、精一杯虚勢を張ったニーナミーナに、ふんと鼻を鳴らした。

「……ま、好きにしろ。私は君が同行しようがしまいが、どちらでもいい」

「ええっ、好きにさせて頂きますっ!」

 アーカイエスはもう一度馬鹿にしたように笑うと、廊下へ出て行った。

「アーカイエスさまっ」

 彼を追って、ララが廊下へ飛び出す。

 ニーナミーナは、彼等の姿が見えなくなると、ふうっ、と肩を落とした。

「ほんと、やな奴っ」

「ニーナミーナ」

 シェイラが、心配して彼女の肩に手を置く。

「でも、私決めた。やっぱりカスタに行くわ。ここで逃げたら、ジェイスの言う通り、神殿に帰れない」

 思い直してくれたことに、ジェイスは安堵して、にっ、と笑った。

「おう、その意気だっ」

 ニーナミーナは彼を振り返り、同じように笑い返した。

「それにしても」

 シェイラは軽く溜め息をつくと、アーカイエスとララが出て行った扉を見た。

「ララって、ほんとにアーカイエスべったりね……」

「そう言えば、あの二人ってどーいう関係なんだろう?」

 詰めた荷物を解きながら、ニーナミーナも首を傾げる。

「恋人っても、どう考えても歳離れてるわよねえ? ララは絶対まだ十代でしょ」

「そうですねえ」

 クレメントは頬に手を当てて言った。

「大体、アーカイエスは幾つなんでしょう?」

「見た所、三十四、五って感じですけど……?」

 シェイラも首を捻る。

「親子、じゃないし」

「それはないわよー」

 女剣士の言葉に、女性神官はひらひらと手を振る。

「どっちにしても、ララはアーカイエスが好きよ、絶対」

 シェイラが断言する。

 人の恋路の詮索など、井戸端会議に上りそうな話が苦手なジェイスは、がりがりと赤茶の頭を掻いた。

「ま、関係はどうでも、奴らがきっちり仕事してくれればそれでいいんじゃねえの?」

「それは、そうだけどね」

 ジェイスの性格を熟知しているシェイラが、話を切り上げようと締め括った。

「まずは、一件落着ですかね」

 クレメントは苦笑して、床に零れた水を魔法で集め革袋に戻した。

 見ていたシェイラが、目を丸くする。

「あら、それ便利ね?」

「割と簡単な呪文です。古代語魔法ですので、シェイラさんにお教えしますよ」

 是非、とシェイラが微笑む。と、見ていたニーナミーナが「はい」と手を挙げた。

「私にも教えてっ」

「残念ながら、古代語魔法が使えなければ無理です」

「えーっ、けち。じゃあ私も古代語魔法を覚えよっかな」

「おいおい、さっきまで帰るって泣いて息巻いてたくせに、随分変わるじゃねえ?」

「泣いてなんかいませんよおっ。それに、人間前向きじゃないとねっ」

「あっきれた」

 人さし指を立ててウィンクしてみせたニーナミーナに、シェイラが盛大に顔を顰める。

 漫才のような美人二人のやり取りに、ジェイスはガハハと腹から笑う。

 クレメントも、声を上げて笑った。

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