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クレメントとジェイスは、シェイラに連れられて女性達の部屋へと入った。
「シェイラさんっ」
入って来た彼等に、ララが困惑した表情で駆け寄って来た。
「どうしても、帰られるっておっしゃって……」
ジェイスとクレメントは、三人部屋の一番手前の寝台に荷物を並べたニーナミーナの元へ行く。
黒髪の神官戦士は、女性にしては上背のある自分より更に長身な、ランダスの英雄伯爵とロンダヌスの不良王太子を、じろりと睨み上げた。
「おいおいっ、これはどういう事だ?」ジェイスは、半ば呆れながら訊いた。
「見ての通りよっ! ランダスへ帰るのっ!」
「それはどうして——」
硬い表情で問うクレメントに、ニーナミーナはずいっと顔を近付けた。
「色々考えたけどねっ、やっぱりわたしはっ、あんな奴と一緒にカスタに入るのは、いやっ!」
「あんな奴とは、アーカイエスですか?」
「それ以外、誰がいるのっ?」
ニーナミーナはくるりと寝台へ向き直った。
再び荷造りを開始した彼女に、クレメントは溜め息をついた。
「確かに……、アーカイエスは癖のある人間です。でも、それは初めから分かっていたことでしょう? それにあなたはあんなに、カスタへ行くのを楽しみにしていたじゃないですか?」
ニーナミーナは、手を止めた。
「それは、そうだけど……」
「だったら、」
「いいって、クレメント」
ニーナミーナの短気は分かっていた。
神殿暮しで世俗に塗れずに暮らして来たこともあり、ニーナミーナは、アーカイエスのような、悪意の塊とも見える人間と接する機会など少なかったのだろう。
我慢ならないのは解るが、そういった輩と対峙する事態も覚悟していた筈である。覚悟してここまで来た以上、逃げ出すのは我がままでしかない。
にも関わらず、である。
彼女の、中々どうしてしぶとい胆力にも密かに敬意を持っていたジェイスは、嘆かわしい気持ちと怒りが綯い交ぜになり、つっけんどんに言った。
「帰りたいなら帰ればいい。けど言っとくけどな、神殿じゃあんたの事絶対歓迎しねえと思うぞっ。なんてったって、魔法石泥棒を必ず捕まえるって、啖呵切って出て来てんだろうからなっ。帰って腰抜け扱いされたきゃ、とっととランダスへ戻りな」
悪し様に言われ、ニーナミーナはぐっと唇を噛んだ。
「何も、そこまで言わなくったって——」
真っ赤になってジェイスを睨むニーナミーナを気遣い、シェイラがフォローしようとした時。
「ほお、帰られるのか?」
アーカイエスの、例の小馬鹿にした口調が響いた。
ニーナミーナは、釣り上がった目を更に険しくして、戸口に寄り掛かって立つノルオールの子の血を引く魔導師を睨む。
アーカイエスは薄笑いを浮かべ、彼女の黒い瞳を見返した。
「イリヤの神官戦士と言えば、音に聞こえた強者ばかりと思っていたが。私の皮肉くらいで尻尾を巻くとは、口程にもないな」
「あんたなあっ」
元凶が、そこまで言うか、と、ジェイスが喰って掛かろうと、一歩前へ出た刹那。
ニーナミーナが手にした水筒用の革袋をばんっ、と床にぶつけた。
色々、こじれてます(汗)
こんなんで、ほんとに遺跡に入れるのか、このパーティー・・・




