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夕食後にもう一度話し合う事にして、会議は一旦解散した。
パッドは、夕食前までに街の様子を見て来ると、一人で外出した。
「ったく、アーカイエスもあれだけど、ニーナミーナは血の気が多いなあ」
窓際の、自分に割り当てられた寝台の上で荷物の整理をしていたクレメントは、ジェイスの言葉にくすっ、と笑った。
「本当に。……どうも彼女はユフィニアに似ています」
「え? そーかねー。確かに姫君も気は強そうだったけど、殴り掛かるよーな真似はしねえだろ?」
「まあそこまでは。でも、一見直情径行に見えて、そのくせちゃんと物が分かっている辺りは、そっくりですね」
「ふうん……」
そう言われればそうかもしれない。
ロンダヌスの第一王女ユフィニア姫とは一度しか会っていないので、実際彼女の性格がどうなのかという評価はジェイスには出来ない。
が、ニーナミーナに関しては、半月以上共に旅してみて、確かにクレメントの言うような部分があると思う。
先刻彼女が激怒したのも、自分に対してのアーカイエスの態度を怒ったのではない。
あの場で誰もが感じていたアーカイエスのやり方への怒りを、ニーナミーナは見事に代弁して退けた。
どころか、クレメントがこれからの共同関係に関する、アーカイエスへの『警告』も言い易くしてしまった。
が、そっちはニーナミーナは意図してやったかは疑問だが。
ジェイスは、ニーナミーナとアーカイエスを叱り飛ばしたクレメントの、冷静な美貌を思い出し、やっぱり美人だと惚れ直す。
美人で、冷静で、頭が良くて、魔力が強くて。
嫁にしたら、間違いなく、ではなく、絶対に尻に敷かれる。だが、それもいいか、と内心で惚気る。
男だから駄目だ、とか、何を企んでいるのか見当がつかない、とか、自分への釘はすっかり溶け腐っている。
やに下がりそうになる顔を引き締めて、ジェイスは思考をロンダヌスの王女へと戻した。
「……そう言や、あんた親父さんに喧嘩売った時、妹の方が王に向いてるって言ってたよな」
「ええ」
クレメントは、手を止めてジェイスを見上げた。
「ユフィは、先程言いましたように、激怒しながらも周囲の状況はきちんと把握出来る性格の持ち主です。僕は、王と言うものは、ある程度振りが出来てそのくせ徹底的に冷静でなければならないと考えています。ユフィはまさに、その資質を備えた娘です」
「なるほどな。でも、俺から見れば、あんたも十分そういう性格だと思うけどなあ」
「あの時も申し上げた通り、僕には王の資質はありません。あったとしても、魔力が問題ですから」
ごく当たり前という表情で自身を否定するクレメントに、ジェイスはうーん、と唸った。
ジェイスーーっ、大丈夫かーー?!