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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第八章 魔法王国カスタの遺跡
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8

「巨大遺跡のほぼ全体に魔物が跋扈しているのは、周知の事と思いますが、そのために、唯一の出入り口である外郭壁の東大門(ひがしおおもん)からの侵入は、現在はほぼ不可能です。

 門を開けた途端に、魔物が溢れ出て来て、ミナイをたちまち飲み込んじゃいますから。ですので、大方の冒険者のみなさんはここの——」

 とクレメントは、地図の裏表を引っくり返した。

 首都アレルの地図の裏側には、古代カスタ王国の、国王直轄領地を示す図が描かれていた。

 現在ミナイから見える郭壁が、かつての直轄領地を守護するものであった事実を、ジェイスは初めて知った。

 クレメントが白い指を、色鮮やかに山地や平野を描いた地図上の、ミナイよりやや北東側に滑らせる。

「ミナイより少し離れた、東大門の側門から侵入しているようです。ここからですと、どういう訳か、中から魔物が出ることが少ないみたいですね」

「中の魔物が大きいのが多くて、側門からじゃ出て来られない、とか?」ナゾナゾだ、と思いつつ、ジェイスは首を傾げる。

「側門には防御結界魔法が掛けられてるかもね。七賢者のどなたかが、入られる時掛けたかも」

 シェイラの言に、パッドが「そうですね」と頷いた。

「でも、飛行系の魔物も居るわよね?」

 ニーナミーナの指摘に、クレメントは「ええ」と微笑んだ。

「魔物の大半は夜行性です。飛行系の魔物も然り。なので、ミナイでは夜間、住人は殆ど外出しません——と、いうのは、お気付きですよね?」

「……そう言えば、そう宿の人にも言われた」

 こくこく頷くニーナミーナに、クレメントは深く笑み、アーカイエスは鼻白む。

「と、いう訳で、僕達も例に習おうと思うのですが、ここからですと、その、クリスタル・パレスへはかなり遠くなりますねえ」

「魔物も居るって勘定だと、ざっと見積もっても、十日は掛かるかも……」

 シェイラが眉を寄せる。

「それに大体、こっから入ったら相手にする妖魔の数が、クリスタル・パレスに着くまでに半端じゃないんじゃない?」

 ニーナミーナの尤もな意見に、「おっしゃる通り」とクレメントは微笑んだ。

「だったらどーすりゃいいんだよ?」

 解決策が無い話に、ジェイスは些か苛つく。

「地下道なんかは、無いの?」

「知らないのか」

 シェイラの問いを、アーカイエスが嘲笑う。

「カスタの魔物は、地上よりも地下に多い。というのは、これまでここに入った多くの冒険者の話を聞けば分かる事だが」

「ちょっとそれって!」

 ニーナミーナが、ついに切れた。

「知らなかったのはこっちの落ち度かもしれないけどねっ! いちいち人を馬鹿にしたような言い方しないでよっ。私達だって、何とか犠牲を出さずに、その、クリスタル……なんとかまで行ける方法を真面目に考えてんだからっ!」

「クリスタル・パレス、だ」アーカイエスは、小馬鹿にしたような表情を崩さずに訂正した。

「目的地も知らずにカスタへ飛び込もうとは。犠牲を出さないと言うのなら、もっと勉強しておくべきだな」

「あんたねぇっ!」

「ニーナミーナっ!」

 掴み掛からんばかりの勢いでアーカイエスに詰め寄った彼女を、パッドが押さえる。

 その手をニーナミーナが振り払った時。

「あのっ」それまで皆のやり取りを黙って聞いていたララが、声を上げた。

「首都の北の大門の上には魔法陣がありますっ。どうやって使うかは、私には分かりませんが……」

 最後の方は、消え入るような声で言った少女に、ニーナミーナが噛み付いた。

「どうしてそれを早く言わないのよっ!」

「君達が、最後まで聞かないからだろう」

 アーカイエスのよく通るバリトンが、謝った少女を庇うように響く。

 人を小馬鹿にしたような物言いに、ニーナミーナがまたも怒鳴った。

「さっさと言わない方が悪いんじゃないのさっ!」

「その直情径行を直さないと、君はカスタの中で最も危険な目に遭うぞ」

「あんたに言われたくないわよっ、この根性曲がりっ!」

 ニーナミーナは机を思い切り叩いた。

 重い分銅付きの武器を振り回す神官戦士の力は、例え女性と言えど相当なもので、叩いた振動は不用意に机に置かれていたの銅製のカップ二つとインク壷を簡単に引っくり返した。

「あーっ、地図が……」

 零れた飲み物が紙を濡らすのを、シェイラが慌てて手近の布巾で押さえる。

 怒りも露なニーナミーナへ、アーカイエスは、薄ら笑いを浮かべた。

「力だけは並以上だな。それなら、脳みそは無くても、怪力の魔物であっても十分倒せる」

「なあんですってっ!」

 またも掴み掛かろうとするのを、パッドが後ろから羽交い締めで止めた。

「離してパッドっ!」

「やめろって! アーカイエス、あなたもニーナミーナをからかうのは止めて下さいっ」

「もうっ! 一発殴らないと気が済まないわよっ!」

「それなら、僕を殴りなさいっ」

 クレメントが、声を張り上げた。

「ニーナミーナ、アーカイエスを殴ったら、僕はあなたを即刻ランダスへ送り返します。僕達は、これから仲間としてカスタへ行くと決めたのです。こんな些末な事で争うのは無駄です。

 アーカイエス、あなたも僕達をパートナーとして選んだ以上、ご自分の知っている情報は出し惜しみせずになるべく提供して下さい。でないとカスタの中では一蓮托生ですよ」

 美貌を冷徹な表情に変え、厳然と言い放ったクレメントに、アーカイエスは返事をせず、ふん、と鼻を鳴らして腕を組んだ。

 ニーナミーナはパッドの腕を強引に振り払うと、足音も荒く部屋を出て行ってしまった。

 彼女の黒髪が入り口の角をひらりと曲がるのを見送って、ジェイスはふうっ、と詰めていた息を吐いた。

「前途多難、だな」

「何とかなりますよ」

 クレメントは座り直すと、鷹揚に笑った。

瞬間湯沸かし器(古いっ!! 古いぞ林!!)なニーナミーナと、アーカイエスの口喧嘩。

書いててちょっと楽しかったりする、私が一番の根性ワル?

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