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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第八章 魔法王国カスタの遺跡
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6

 意外な言葉に、ジェイスは思わず振り向いた。

「……何で?」

 所長はカウンターに片腕を付くと、ずいっと、皺の多い気難しそうな顔を前へ出した。

「紹介して金を貰ってる立場で言うのもなんだが、あいつはヤバいよ」

「それは、どういう……?」

 興味を引かれたらしく、クレメントがカウンターへ戻る。

「ミナイはカスタ遺跡の膝元。遺跡で一攫千金を狙う連中の寄り集まる場所だってのは、あんた達だって知っていなさるだろうが。

 冒険者って言えば聞こえはいいが、大方が、国軍や神殿から追い出された剣士や騎士。腕が立つからヤバい傭兵仕事やら何やらで、通行証を買う金を稼げる、荒くれ連中だ。

 その他には、お尋ね者の盗賊や強盗専門の奴なんかも居る。ミナイはそんな奴らで溢れ返っている、治外法権みたいな土地だ。

 気の荒い馬鹿の集合場所だ。酒場じゃ毎晩、喧嘩沙汰が起きてる。けど、誰もそれくらいで怯んだりしねえ。ヤバいのはお互い様だからだ。

 でもな、そんな所でも、こいつは本気でヤバいっていう人種は居る。そのひとつが——」

 饒舌に語った所長は、不意に口を閉ざすと、アーカイエス達が出て行った方に、渋い顔で首を振った。

「ノルン・アルフルの末裔?」

 所長に釣られて渋面を作ったジェイスに、所長は大きく頷く。

「……ここじゃ昔っから言われてるんだ。カスタの遺跡に黒い妖精が入った時は、ロンダヌスが滅ぶ時ってな。まあ、滅ぶってのは大袈裟だと俺も思うが、組んだ奴がろくなことにならないんじゃあないかとは思うぜ。

 悪い事は言わねえ、あいつと組むのは止めときな」

 所長は、クレメントの前に、先程ジェイスが支払った料金を置いた。

 クレメントは、その金を所長の方へそっと押す。

「ご忠告ありがとうございます。でも、僕達もそれなりに考えがあるので」

「そりゃそうだろうけどよ……」

 皺だらけの顔を顰め、所長は暫し、トール・アルフルの末裔の美しい貌を見詰める。そして、ふう、と諦めたように溜め息をついた。

「どうしても組むってんなら仕方ねえが。くれぐれも、気を付けなせえよ」

「ありがとう」と言い置いて、クレメントが踵を返す。

 それを合図に、一同は紹介所を出た。

「ミナイはカスタの膝元……」

 七段の短い階段を下り切ったところで、クレメントが呟いた。

「なに?」と、手前を歩いていたシェイラが振り向く。

「ライズワースの地下迷宮の話は、ロレーヌの書庫にしか残って無いと思っていました。でも、さすがにミナイはカスタに近い町です。断片にしてもそういう話が残っているというのは」

「ああ。黒い妖精が、って話か?」

 顔を覗き込んだジェイスに、クレメントは銀の瞳を向け、「ええ」と頷いた。

「それにしても」と、ニーナミーナが、階段の最後の一段に、腰に両手を当てて仁王立ちになった。

「まさか、魔法石泥棒と一緒にカスタへ行くなんてっ! びっくり仰天よ、もうっ」

「私も」と、シェイラが苦笑する。

「自己紹介が、ってクレメントが言い出した時、思わず「何で?」って言いそうになったわ。——で、クレメント、本当にどういう積もりなの?」

「カスタの遺跡は広いです。その中で、お互い追い掛けっこをしても、無駄に体力を消耗するだけです。

 それに、僕らはアーカイエスが魔法石を盗んだ、という決定的な証拠は、何ひとつ持っていません。ならば、当人達が目的をはっきり意思表示して来てからでなければ、こちらからは捕らえられないでしょう」

 やっぱりな、と思いつつ、ジェイスはすらすらと笑顔で答えたクレメントを見遣った。

 いつもの頬笑みだが、綺麗な銀の目は全く笑っていない。

 相当、怒っているな、と、直感する。

「確かに、でん……じゃない、クレメントのおっしゃる通りですけど……。本当に、あの男をすぐに捕えなくて大丈夫なんでしょうか?」

 心配そうな表情で、パッドが尋ねる。

「問題は、魔法石ではなくてカスタです」

 クレメントの顔から、笑みが消えた。

「魔法石を盗み出した事は、実は大した罪じゃない。本当の大罪は、これから彼が、もしかしたら行おうとしている事です。

 僕は、極力その魔法の発動を抑える積もりでいます。しかし、万が一、発動してしまった場合……。カスタのその構造が、何処まで堅牢に残っているかが、問題なのです」

「まさか……、爆発でもする?」

 ニーナミーナが、恐々、といった表情で尋ねる。

「まさか」クレメントが苦笑した。

「でも……、あー、まあ、近いかもしれませんね。魔物が全部、カスタ外部へ放出されるかも、ってところですから」

「それっ、めっちゃくちゃ、いやっ!!」

 ニーナミーナが、本当に嫌そうに、自分の身体を両腕で抱き締めて身震いする。

 その様子にシェイラが、「可能性の問題よ」と、軽く笑った。

「ま、どっちにしろ、カスタの中へ一緒に入ってみなけりゃどうなるかは分からないって事か?」

 ふん、と鼻を鳴らしたジェイスに、もう立ち直ったニーナミーナが呆れたように首を振る。

「何だか、やっつけ仕事みたいよね?」

「そうねぇ、結構大変な話なのにね」シェイラが失笑する。

「そう聞くと、何となく行き当たりばったりな気が……」

 パッドまでが、顔を強張らせたまま笑った。

 ニーナミーナが、パッドの顔を見て吹き出す。

「相手のなすがまま?」と、シェイラ。

「そんな風に言われると、何だか僕達おまぬけみたいな気分になりますねぇ」

 クレメントが苦笑する。釣られてジェイスとシェイラが笑う。

「なっさけないわねぇ」

 ニーナミーナが、腕組みをして大仰に首を振った。

強気なんだか弱気なんだか分からないニーナミーナが、結構面白かったりしています。

しかし、なんだかなぁ・・・この一行(汗)

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