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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第八章 魔法王国カスタの遺跡
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5

 先に入って来たのは、若い女だった。黒い髪に黒い目、白いローブの胸元に赤いブローチを下げている。

 縁に赤い二本の線があるローブの形は、スピルランドのファーレン神殿独特のもので、彼女がファーレンの巫女である証拠だった。

 後から扉を潜ったのは男。灰緑色の綿の外套を羽織った背丈は、大柄なジェイスを軽く抜いている。

 背の割りには痩せた体格で、銀髪に特異な浅黒い肌、深紅の瞳をしている。

 事件が起きた時には顔は見えなかったが、この男は間違いなく、ジェイス達がウォーム神殿で出会った、あの魔法石盗人だった。

 深紅の瞳は、静かだが、奥に狂気を抱いているようにも窺える。

 これが、クレメントの言っていた、ノルン・アルフルか、と、ジェイスは内心で微かにおののいた。

 クレメントは、こういう形で彼等が接触して来るであろう事も、どうやら考慮していたらしい。

 盗人の目的は、ランダス王の大剣である。

 現在ジェイスが預かっている大剣を強奪するのは、こちらの守備力から考えて、例え強大な魔力を有するノルン・アルフルと言えども至難の技だ。

 無理をするより仲間としてカスタに入り、中で隙を見て奪取する方が容易いとの腹積りだろうと、ジェイスは推測した。

 二人が揃ったところで、紹介所所長が口を開いた。

「あんた方が探していたパーティだ。剣士三人、魔導師一人、神官一人。間違いないかい?」

 長身のノルン・アルフルは暫しクレメント達を見回すと、ゆっくりと頷いた。

「ああ。——では料金を支払おう」

 ジェイスはクレメントを見た。若緑の髪を持つ王太子は、いつもの、感情の読めない頬笑みでノルン・アルフルを見ている。

 所長に料金を支払ったノルン・アルフルは、改めてジェイス達へ向き直る。

「では、そちらが宜しければ私達はメンバーとしてカスタへ一緒に行きたいのだが?」

「ならば、先に自己紹介が必要でしょう。互いに名が判らなければ、遺跡の中ではぐれた時に困ります」

「それは、そうだ」

 クレメントの惚けた言い方に、ノルン・アルフルも惚ける。

「私はアーカイエス。元スピルランドの宮廷魔導師だ。御覧の通り、ノルン・アルフルの血を濃く継いでいる。

 そしてこちらはララ・シシーリス。ファーレンの巫女だ」

「宜しく、お願いします」

 少女が控えめに頭を下げた。

 クレメントは鷹揚に頷くと、自分から挨拶を始めた。

「僕はクレメント。魔導師です。出身はロンダヌスです。で、後のメンバーは——」

「あたしはニーナミーナ・ワッツ。ランダスのイリヤ神殿の神官よ」

 クレメントが他のメンバーを紹介しようとする横から、ニーナミーナが割って入った。先走った彼女の腕を、パッドが引っ張る。

 それを少し笑いながら、これは自己紹介だなと、ジェイスは続いた。

「俺はジェイス・キリアン。見た通りの傭兵だ。よろしくな」

「私はシェイラ・ラトランス。同じく傭兵よ」

「僕は……」

 パッドはおずおずと口を開いた。

「僕は、パッド・ローエンです。元神殿警護の騎士です。宜しくお願いします」

 一同の紹介を聞き終えたアーカイエスが、ふん、と鼻を鳴らす。

「まずは、打ち合わせがしたい。あなた方はどちらの宿に泊まっているのか?」

「巨竜亭です」

「では、我々がそちらへ移ろう。三十分後に巨竜亭の食堂で」

 アーカイエスはそう言うと、踵を返した。

 出て行く魔導師の背を追って、ララも扉を潜る。

 巫女は、出際にクレメントを振り返ると、何故か済まなさそうな表情で会釈した。

「……んじゃ、俺達も親父さんに料金払って出るとするか」

 ジェイスは懐から財布を取り出す。

「紹介料、いくらだ?」

 所長に言われた紹介料を払い、ジェイス達は紹介所を出ようとドアへ向かった。

 と、所長が唐突に、一行を呼び止めた。

「あんた達、あいつとは関わらん方がいいんじゃないのか?」

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