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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第八章 魔法王国カスタの遺跡
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4

 食事の後。

 一行は、ミナイの中央広場に面した紹介所へと向かった。

 道すがら、紹介所の内容を知らないというニーナミーナやパッドに、シェイラが説明をする。

 神官や巫女、騎士などには、普通なら紹介所は無縁な場所だ。

 無論、カスタ遺跡のような場所に神官や巫女が腕試しに入る事はある。が、その場合は、所属神殿の許可を得て、修行の一環として入るのだ。

 紹介所に登録する神職の者も居るには居るが、そんな事情で稀だった。

「ってことは、紹介所を利用するのは、傭兵だけなの?」

 雲の切れ間に射す夏の午後の強い陽射しを建物の軒下を歩く事でなるべく避けながら、ニーナミーナが訊いた。

「そんな事ないわよ。荷運びの人足や女中さん、それに子守りなんかを雇いたい、あるいはそういう仕事をしたい人も紹介所を利用するの。色んな仕事があって、その中のひとつが、傭兵」

「なるほどね」

 話しているうちに紹介所へ着いた。

 そこは、煤けた煉瓦造りの集合住宅(アパート)だった。

「——ここ?」

 ニーナミーナが、心配そうな表情で見上げた先には、煉瓦壁に直接取り付けられた棹に古びた真鍮製の看板がぶら下がっている。僅かに見える程度の文字に『ミナイ紹介所』と書かれていた。

「ここって、どう見ても普通の賃貸の集合住宅の一室よね?」

「ああ。でも宿屋の親父が言ってた場所は、ここだなあ」

「やってるのかな」

 パッドも、青い瞳を曇らせる。

「ま、とにかく入ってみましょう」

 クレメントはとっとと木製の手摺のついた、七段程の階段を上った。

 中は、予想した通り狭かった。蝶番が錆びて、ぎいっ、と歯軋りのような音がするドアから一、二歩で受付があり、黒髪に白髪がちらほち混じり始めた、初老とおぼしき年齢の、気難しそうな顔の、痩せた男が座っている。

「あのー」

 クレメントが声を掛けると、男は読んでい

た羊皮紙から目を上げた。片眉を上げた額には、深い皺が幾本も浮かぶ。

「登録をしたいのですが」

「……カスタへ、入るのかい?」

 他の仕事を問わずにそう訊いて来たのは、ここを訪れる客の大半がカスタで一旗揚げたい連中だからだ。

 仕事がほぼひとつならば、窓口がたくさんあっても意味は無い。

 それに、同じ目的の者が多く集まる場所では、何も紹介所でなくとも人手は見付け易い。

 許可証は金次第というのだから、事務仕事は至って簡単だ。

 ミナイの紹介所がこの規模なのはそういった事情なのかと、ジェイスは遅蒔きながら納得した。

 遺跡探索目的かを問われたクレメントは、にっこり笑って「はい」と答えた。

「それであと二人程人を増やしたいのです」

 男はちらりと彼の後ろを見た。

「見れば、結構大人数のパーティじゃないか。

それでまだ人手がいるのか? それとも、腕に自信の無い集まりなのかい?」

 ジェイス達を嘲るような口調に、頭に来たニーナミーナが前へ出る。

「あのねおじさんっ」

「まあまあ、ニーナミーナ」

 彼女が本格的に怒鳴り出す前に、クレメントが苦笑しつつ制した。

「実はカスタの最深部にまで行きたいと思っていまして。それにはこのパーティでは魔導師が足りません。出来ればあと一人。それに、神聖魔法が使える人がいれば、そちらも一人」

「神官かい? 巫女かい?」

「出来れば巫女が」

 男はじろりとクレメントを睨むと、持っていた羊皮紙をくるくると巻いた。

 そして、カウンターの上に置いたベルを鳴らす。

 と、男の背後の扉が、きいっ、と音を立てて開いた。出て来たのは、十二、三の少年だった。

「東通りの青い馬亭へ行って、例の人達を呼んでこい。『ご希望の人員が見付かりました』って言ってな」

「はい、所長」

 少年は会釈すると、再び奥へ引っ込んだ。

「誰だよ? 例の人って……」

 訊いたジェイスに、だが男——ミナイ紹介所所長は、一瞥しただけで答えなかった。

 程無くして。

 少年が、今度は正面の入り口から入って来た。

 彼の後ろには、二人の人物が付いていた。

 立て付けの悪い扉を潜って来たその人物に、ジェイスは小さく「あっ」と声を上げた。

・・・「あっ」!!!

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