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「……はい。先程も申し上げた通り、魔法は、全く使えない人々にとって憧れでありながら脅威であり、不可解です。そういう人々の代表が、我が父だと、僕は思っています。
どんなものでもそうでしょう、少しあれば便利で重宝しますが、多過ぎると逆に害になる。僕の魔法は、正にそれです」
「けどなあ……」
言い得て妙な事柄ではある。
自分とて、魔力の無い身でシェイラの炎の魔法を見た時は、頼もしいと思った反面、はっきり脅威をも感じた。
その数百倍とも想像出来る魔力を有するクレメントを、確かに全く怖がらない民は少ないかもしれない。
戸惑って言い淀んだジェイスに、クレメントは薄く笑った。
「そういった事情で、父上は僕が魔力を持って生まれた事を悔やんでいるのです。
僕が魔導師でなければ……。
自分のように、大柄な体躯で剣技に優れた王子であったならと。父上の理想は、ジェイスのような王太子でした。それなら、魔力が民衆を恐慌に陥れるのではなどという懸念は無用です。ですが現実には僕しか王子はいませんから、あの方は我慢を強いられている訳です」
「……随分、息苦しいんだな」
期待とは全く違う能力を持って生まれてしまった者が、替えがないためにその立場を免れない。
それは自分にも、形は違うが当て嵌まっている。
ジェイスは、王の姉を母に持った。
カーライズ公爵家はランダス貴族の中でも筆頭で、それ故王家以外の王位継承権も、ジェイスの場合上位になる。
当然、何かの折には血筋から王になる者として、彼には幼い頃から政治や外交といった学問の力が期待された。
が、ジェイスは剣を初め武術には早くから才能を示したものの、学問の方は一向に身に付かず、父や兄達、果ては従者達まで嘆かせた。
「未来の王となるやも知れぬ身が、その程度の知識も無いとは嘆かわしい」
特に長兄ジークリードには、事ある毎に説教された。
だが、幾らそう言われても、苦手なものは苦手である。
まして、生まれ持った資質を非難されても、それは本人にはどうにも出来るものではない。
剣は握らなければそれで済むが、魔力は、どう考えてもそれでは納まらないだろう。
ジェイスとクレメントでは立場は大きく違うし、期待度も大幅に違う。しかし似通っている、という点で、ジェイスはロンダヌスの王太子の気持ちが、幾ばくかは理解出来た。
クレメントは、少し寂しげな笑みを浮かべた。
「そう……、ですね。父上も僕も。だから、僕はこの城から、少しでも長く離れていたいのかもしれません」
「けど、離れたくても、今度は完全に禁足命令が出ちゃったわねえ」
シェイラがはあ、と溜め息をついた。
ジェイスも苦言を述べる。
「あんな、真っ向から噛み付いたら通行証もへったくれもねえだろう?」
「まあ、そうなんですけれど」
クレメントはいつもの笑みを美貌に掃いた。
「どうも父上と話しているとつい向きになってしまいまして」
「だからってなあ」
ジェイスは渋い顔で腕を組みつつ、「それが、同族嫌悪だっていうんだよ」と、内心でぼやく。
彼の心の呟きを分かっているという風に、父親とそっくり同じ頑固な異国の王太子はにやりと笑った。