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「クレメントっ」
「あんた、一体どっから入ったんだよっ?」
客間の入り口の外には、警護の兵士が一人、案内も兼ねて付いていた。もし城内の誰かの来訪があれば、その兵士が事前に知らせに入る筈である。
だがクレメントは兵士の取り次ぎどころか、次の間から突然現れた。
「もしかして、また魔法か?」
「というより、この部屋には外部から直接入れる魔法陣が、次の間にあるんです。ここは、カスタの王族が内々に人と会うために作られた部屋です。故に、魔法陣はカスタの王族の血を選別に使っています」
なるほど、とジェイスは頷いた。
魔法はまるでド素人だったジェイスだが、数日クレメントと付き合い、ついでに、精神的にも肉体的にも散々振り回されたせいで、少しは魔法のなんたるかが、理解出来るようになった。
「だからわざと、この部屋へお二人をお通しするよう、侍従には申し付けたんです。
……王城内の魔法はさておき、さっきジェイスがおっしゃっていた、僕と父上が同族嫌悪というのは聞き捨てなりませんが?」
「おいおい、そこにこだわるか?」
ジェイスは片眉を上げて、クレメントを見上げた。
普通、反応するなら変人と評された方だろう。
だが疑問を投げられた王太子は、気にした風も無く話を続ける。
「確かに、僕も父上も互いが好きではありません。理由は僕が魔導師だからです。父上は魔力——魔法というものに信用を置いていませんから。あの方は、この世は剣と政治によって治めるものだと信じて疑わないのです。魔法などというものは、あの方にとって曖昧で理解出来ない、不気味で危険な代物です。そのようなものが世を支配するなどは、父上としてはあってはならない事柄なのです」
「けど、ロンダヌスの先祖、カスタの王族は殆ど皆魔導師だった訳でしょ?」
祖先を敬うパンドール大陸の各王家のしきたりからすれば、ロンダヌス王が魔導師を嫌うのは随分と非礼である。
シェイラの言葉に、クレメントは苦笑する。
「そうです。しかし、父上にとってはそれは古臭い因習であって、今日の自分達には全く関係ない事なのです。現代の政治に、魔法は必要無い。むしろ、魔法や魔導師などは宮廷にとって害にこそなれ役には立たないと、お思いです」
「そうかなぁ。魔法は結構役に立つぜ? 戦の時には特に、速攻で傷は塞いでくれるし」
水の治癒魔法の、あのひやりと冷たくぬめった感触は好きになれないが。
「ロンダヌスでは、カスタ滅亡の時以来、戦らしい戦は起きていません。ですから、治癒の魔法も、良い薬さえあれば不必要。それより魔導師達の知識と力のほうが、父上にとって目障りなのです。
魔導師は古い知識を学び、必要とあらば王に奏上します。その際、魔導師の中には王の新しい政治に対し、古代ではどう行っていたとか、そのような前例は無い、などと、口を出す者もいます。それが、父にとっては煩いのです。
それに、魔法の効力も。炎の魔法の最下級でさえ、一撃で剣士二人分の働きに相当する威力があります。が、剣技至上主義の父上にとって、魔法の威力は不愉快でしかありません。
お陰で、ロンダヌスでは現在先王の時代に比べ宮廷魔導師が半分に減りました」
「けどそれだからって……。レオドール2世陛下は本当にあんたが言ってた通り、あんたが王位に就くと民衆が恐怖を覚えるって、思ってんのか?」
クレメントは、ほろ苦い笑みを浮かべ、頷いた。
レオドール2世は、ジェイスとおんなじバリバリの剣術バカです・・・