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「たかだか魔導師一人捕えるのに、何故一国の王太子が出向くのだ? 大体、魔法が何だというのだ。七賢者の時代ならいざ知らず、今は武器も軍も当時と比べ物にならない程進んでおる。
我が国の兵が探索に乗り出せば、そのような族、程なく捕える事が出来よう」
父のその言葉を聞いて、クレメントは、まるで作り物のような笑みを浮かべた。
「なるほど、斬新な父上のお考えです。
ですが、僕は承服し兼ねます。兵に最新の武器を持たせ賊の探索をさせても、恐らく戻って来るのは、最悪の場合兵の死体だけでしょう。そうなる前に、僕が賊を追い詰めると申し上げているのです。
どうか、探索のご許可を——」
「何度言わせれば分かるっ!」
ついに切れた国王が、大声と共に玉座から立ち上がった。
「ならぬと申したら、ならぬっ! そうまで申すならそなたは幽閉するっ!」
「父上っ!」
「陛下っ!」
これにはさすがに、ユフィニア姫も廷臣達も顔色を変えた。
「兄上は王太子ですっ! たかが盗人の探索うんぬんで、王太子を幽閉などとは、言語道断ですわっ」
「国の面子にも関わります。陛下、どうかお考え直しをっ」
両方から止められて、レオドール2世は両手の拳を握り締め、唸った。
熱くなる父を前に、当のクレメントは涼しい顔で更に挑発する。
「父上は、何を恐れておいでなのです?」
「……何だと?」
再び、レオドール2世の額に青筋が浮かぶ。
「僕の魔力ですか? それとも魔力などというろくでもないものを持った人間が、将来王位を継ぐという事実ですか?」
「おまえは……っ」
「二言目には、僕を幽閉なさるという。もし僕が王太子であるのが問題ならば、廃嫡なさればよいでしょう?」
「あっ、兄上っ!」
血相を変えたユフィニア姫が声を上げる。
更に言い募ろうとする妹を片手で制し、クレメントは続けた。
「さもなくば、僕が王位継承権を捨てればよいのです。……そうですね、降嫁してしまえば、ロンダヌスの法により継承権は無くなりますね」
ジェイスは耳を疑った。
降嫁? 男が?
「キリアン伯」
名を呼ばれて、ジェイスは「はい?」とクレメントを見た。
王太子はいつもの笑みを三倍増しにして、こちらを向いている。
「僕と結婚して頂けますか?」
「——……あ?」
言われた言葉の意味がすぐに理解出来ず、ジェイスは思わず、頓狂な声を出す。
一拍置いて。
ユフィニア姫と居並ぶロンダヌスの廷臣、それにシェイラまでもが叫んだ。
こ、降嫁ーーっ!!