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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第一章 魔法石の盗難
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8

 何処かの国の訛りのようだが、やけに勘に触る発音だ。

 すぐ側で、クレメントが、小さく息を飲む音がした。

 何を驚いたのか尋ねようと横を向いた途端、いきなり腕を掴まれた。

「なん……?」

 視線を戻すと、兵士長が腕を掴んでいた。

「貴様達が盗人だ、間違いない」

「はあっ?!」

 違うと申し立てているのを、全く聞いていなかったのか?

 呆れて、ジェイスは、掴まれた腕と兵士長の顔を、交互に見る。

「あのー、俺達は本当に関係ないんだけど」

 喧嘩覚悟のシェイラとは対照的に、ジェイスは、やはり穏便に済ませられるならそうしたい、と、大人しく反抗してみる。

 しかし、兵士長は、まるで彼の言葉など耳に入っていないようだ。

「貴様達が、盗人だ」

 ずいっ、と、掴んだジェイスの腕を引き、強引に連行しようとする。

 厳めしいが、貼付いたように形相を全く変えない兵士長の態度に違和感を覚え、ジェイスは無言で掴まれた腕を振り解いた。

 兵士長が、睨んではいるが空ろな目で、ジェイスを振り返る。

「だから、関係ないって」

「……あの方が正しい。あなた達が犯人だ」

 だが、今度は神官長までが、娘の言葉を肯定した。

 娘がまた言った。

「捕まえなさい、兵士の方々。あの人達が賊ですっ」

「違うって、言ってるでしょっ?!」

 シェイラが吼えた。

 しかし、娘の言葉に従って兵達は一斉に剣を抜く。

「……こーいう、騒ぎの起こし方、したくねえんだけどなあ」

 じりじりと寄せて来る彼等に、ジェイスは仕方なく、背中の大剣の柄を握った。

 団体からまた悲鳴が上がった。

 シェイラも腰の剣を抜き放つ。

「抵抗するなら、殺せっ!」

 兵士長が叫んだ。

 迎え撃つため剣を構えた二人に、クレメントが鋭く指示した。

「殺してはいけませんっ」

「分かってるってっ!」

 他国の兵士を手に掛ければ、ジェイスの立場上、身分がばれた時が厄介だ。それに、場所も礼拝堂という、最も血を嫌う所である。

 左から斬り掛かってきた一人が振り下ろした剣をかい潜り様、ジェイスは抜刀した大剣の柄で兵士の鳩尾に当て身を食らわす。

 揉んどり打って倒れた兵士の背後から襲ってきた二人目は、回し蹴りで弾き飛ばした。

 ちらりと目の端に入った相棒のシェイラも、片刃剣の峰を上手く利用し、兵士を次々と床に転がしている。

 たった二人に手こずる部下に業を煮やした兵士長が、更なる増員のために緊急用の呼ぶ子笛を吹いた。

 笛を聞き付けた神殿警護の兵士達が、奥の詰め所から礼拝所へ、ばたばたと駆けて来る。

 その数、ざっと数えても、20人は下らない。

「ちょおっ……! いくら何でも、この人数を俺とシェイラだけで転がすのは、無理だぞ?」

 さすがに降参、と、手を挙げかけたジェイスに、クレメントが真剣な声で返して来た。

「ええ。もうこれ以上は。——逃げましょう」

 言うなり、クレメントは兵士達に右手の掌を向けた。

 呪文の詠唱も何も無かった。

 クレメントの掌が向いた方向に、いきなり小さな竜巻きが起こった。竜巻きはたちまち、ジェイス達に迫っていた兵士達を突き倒す。

 驚いて動きを止めてしまったジェイスとシェイラに、クレメントが早口で促した。

「外へ出てっ!」

 クレメントは自分の魔法の効果など全く頓着せずに、素早く扉の外へ飛び出した。

 ジェイス達も、それに続く。

 見物人を礼拝堂内へ入れぬよう押さえていた外の兵士が、唐突に開けられた扉に驚き振り返る。

「捕まえろっ!」という兵士長の怒声に、幾人かの兵士がジェイス達を阻止しようと立ちはだかった。

 ジェイスはとっ掛かって来た二人を拳骨で排除する。倒れる兵士を避けた群衆が割れた隙間をさらに広げ、三人は大通りへと出た。

「待てっ!」

 礼拝堂から出て来た兵士が、彼等が分けた人波を辿って追って来る。

「しつこいですねっ」

 クレメントは立ち止まると、もう一度掌を追っ手へ向かって上げた。

 今度は眩い光が、兵士達の頭上で炸裂する。

 周囲に居合わせたやじ馬達も、一斉に目を覆ってその場に屈み込んだ。

 その隙に、三人は大通りから脇道へと一目散に逃げ込んだ。

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