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「とにかく、何をどう言い訳しようと、そなたの城外への外出は、当分許可はせぬ。よいな、クレメント」
「では、大神官の魔法石は、二度とロレーヌには戻らないでしょう。それどころか、ロンダヌスは遠からず、魔物の国に成り果てます。このロレーヌとて例外ではありますまい」
クレメントの言葉を聞いた途端、廷臣達は騒然となる。
怒りに震えながら、レオドール2世が玉座から立ち上がる。
「おまえは……っ! わしの言い付けが気に食わぬからと、何だその脅しのような言い種はっ!」
「脅しではありません」
クレメントは、硬い声で返した。
ジェイスは、数日付き合って一度も聞いた事の無い王太子の声音に驚き、彼を見る。
クレメントは、それまで貼付けていた柔らかな笑みを美貌から消し去り、怒りを込めた鋭い眼差しで父王を睨み据えた。
「僕の意見を今お聞きにならないなら、きっとそうなると申し上げておるのです。
敵は並大抵の魔導師ではありません。七賢者の掛けた魔法を覆す程の力を持ち、なおかつノルン・アルフルの血を濃く継ぐ者です。同等か、それ以上の魔導師でなければ彼奴を搦め取るのは不可能。
そして、七賢者に匹敵する魔力の持ち主は、このロンダヌス、いえ、パンドール大陸広しと言えど、もはや数人しかおりません」
「……その一人が、おまえだと言いたいのか」
「まことに、恥ずかしながら」
レオドール2世はふん、と鼻を鳴らした。
父子のやり取りを端で見聞きしながら、ジェイスは奇妙な違和感を覚えた。
強大な魔力を持った魔導師が国内に居るというのは、戦力で言えば十倍、いや百倍相手を上回れる可能性がある。
先の戦でのシェイラの働きを見ていれば、それは明白だった。
クレメントの魔力の強さは、戦いの場と言える所では二度しか見ていないが、それでもシェイラの魔力を凌駕しているのは十分に分かった。
にも関わらず。
レオドール2世の態度は、どうも我が子の魔力が疎ましいか、あるいは嫌っているようにしか思えない。
その答えは、すぐに王の口から聞く事が出来た。