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入って来たのは、十八、九の、卵色のドレスを纏った娘である。
娘は、長い銀髪を纏めもせず背に流し、怒ったようにずかずかと大股で王のすぐ前までやって来た。
「あんまりですわ父上っ! 兄上がお戻りになった事、何故すぐにわたくしにお教え下さいませんのっ?」
父王と同じ水色の美しい目を吊り上げ玉座の方を睨んだ娘に、レオドール2世は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「色々と、クレメントと話さなければならなかったのでな。話の内には国の威信に関わる問題もある。女のそなたには関係無い事柄なのだ。分かるな? ユフィニア」
「分かりませんわっ!」
ユフィニア姫は即座に叫んだ。
「女だから何なのです? わたくしとてロンダヌスの王族です。それなのに女だというだけで国の問題からは爪弾きですの? それは全くの不公平ですわっ!」
「しかし——」
「父上は、女のわたくしには国の政は全く判らないと、そうおっしゃりたいのですか。見くびらないで下さいまし。わたくしは王女として、国政に関する事は誰よりも学んでおりますっ」
「そなたが、政治や国の運営についての勉学に熱心なのは、教授達の話を聞いて知っておる。しかし、そなたは王女なのだ。王女は、そういう学問ではなく、もっと別の、その、王族の女性としての嗜みをだな……」
しどろもどろの王の言い訳に、黙って聞いていた王太子が小さく吹いた。
「クレメントっ、何がおかしいっ」
「父上の負けです。今後はユフィニアを爪弾きになさらない事です。
ユフィ、お客さまがいらしています。ご挨拶を」
王女は、そこで初めてジェイスとシェイラに気が付いた。愛らしい口を「あ」という形に開けると、慌てて兄の側へと下がる。
「これは、失礼致しましたっ。わたくしは、ロンダヌスの王女ユフィニアと申します」
「お初にお目に掛かります。私はランダス国王より伯位を賜っております、ジェストロッド・キリアン・カーライズと申す者です」
普段はごろつき顔負けのくだけた言葉遣いしかしないジェイスだが、やはりそこは由緒ある王家の傍系である。
優雅に膝を折る偉丈夫に、ユフィニア姫は水色の目を見開いた。
「まあ。ではあなたが、ランダスの英雄伯爵でいらっしゃいますの? ……兄上っ、分かっておいででしたら、もっと早くご紹介して下さいませっ」
真っ赤になってクレメントに文句を言う妹姫に、ジェイスもシェイラも、悪いと思いつつ小さく吹き出した。
クレメントは苦笑いをしながら、拗ねる妹に弁解する。
「けれど、ユフィがもの凄い剣幕で捲し立てていましたので。知らせようにも、あれでは口の出し様がありませんよ?」
「ひどいですわっ」
ユフィニア姫は頬を膨らませると、ぷい、と横を向いた。
その仕草には、居並ぶ重臣達も思わず顔を綻ばせる。
座が一時和んだところで、再びレオドール2世が途切れた話の続きを切り出した。
クレメントの妹姫、ユフィニア。
泥仕合の親子喧嘩の、束の間の清涼剤です(笑)