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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第七章 王と王子
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4

 謁見のための大広間は、二階一番奥にあっ

た。

 縦に長い造りの広間は、階下の廊下と同様、壁は白一色のしっくいによる、精緻なレリーフで覆われている。

 階下と異なる点は、レリーフが人ではなく全て植物なところだ。

 幾本もの大樹が、天に向かって枝を広げている様は、トール・アルフルの故郷である深い森林を模したものだろう。大樹の根元には、愛らしい草花が咲き誇っている。

 春の森である。

 レリーフは等間隔に設けられた半円形の柱によって区切られている。柱は、上部にこれも精緻な紋様のレリーフが彫り込まれた梁があり、梁の下には飾りの白い薄布が、ところどころ細紐で結ばれて下げられている。

 正面入り口から対面する玉座の間の床には、緋色に金糸の紋様が折り込まれた細長い絨毯が敷かれていた。

 質素だが荘厳な趣の広間には、既に王太子帰還の前触れを受けた廷臣達が、玉座を挟んで並んでいた。

 騎士に先導され王太子に続いて入室したジェイスは、いずれも髭面の重々しい面々に故郷の御前会議の様を思い出す。

 廷臣達は、クレメントが広間に入って来ると一斉に膝を折って礼をした。

 俗に『妖精式』と言われる礼は、王宮の式典でも最高とされ、主に国王と王太子、それと国賓の前で使用される。

 何故『妖精式』と言われるのかは定かではないが、察するにカスタの王宮で行われたのが始まりだからではないかと、識者は言っている。

 ジェイスの身分については、既に皆聞いている筈であるので、彼は絨毯の上を、さもランダスの英雄らしくゆっくりと進んだ。

 進みながら、居並ぶロンダヌスの家臣団の様子をさりげなく横目で窺う。

 『妖精式』礼は、頭を深く下げてしまう姿勢を取るため、表情までは解らない。が、廷臣達の纏う雰囲気は、誰も彼も重いような気がした。

 放蕩者の王太子に対する不満を、廷臣達が皆同じように抱いているようだ。

 さもありなん、と、ジェイスは内心で納得する。

 供も連れず、魔法で何処へでもほいほい勝手に出掛けてしまう王太子では、家臣達の気が休まる時が無い。

 顔には出さず、ロンダヌス王家の家臣団に労いをこっそり送りつつ、ジェイスは玉座の前へとまかり越した。

 玉座には、既にロンダヌス国王が着席していた。

 クレメントは所定の位置で足を止めると、家臣達と同じ礼を優雅にしてみせた。

「ただ今戻りました、父上」

 若緑の髪が、下がる肩から静かに滑り落ちるのを、同じく礼を取りながらジェイスはちらりと目を上げて見る。

 と、国王の渋い声が頭上から降って来た。

「やっと戻りおったか。この風来坊が」

放蕩息子、ご帰還。

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