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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第七章 王と王子
74/153

3

 ロレーヌは、なだらかな丘陵地帯に出来た都市である。王宮は、幾つか連なる丘の一番高い場所に建てられている。

 丘の周囲には壕が巡らされ、数カ所ある門は全て跳ね橋がつけられている。

 一際大きな跳ね橋を持つ正門から、馬車は城内へと入った。

 長いアプローチを抜け、漸く正面入り口に止まる。

 馬車を降りたジェイスは、まず目にした扉の大きさに驚いた。

 優に五メートルはあろう高さの、黒い鋼鉄の大扉である。その左右には、どうやって積み上げたのかさえ解らない巨大な石の柱が聳えている。

 その石柱の上部に穿たれた見張り台に立つ門兵が、王太子の到着を知らせる鐘を鳴らす。

 と、巨大な扉が音を立てて内側に開き始めた。

「——どうなってんだ? この扉っ?」

 到底人力では開けられないであろう扉が開く様に、ジェイスは目を剥いた。

「これは、機械で開けています。城内に扉の開閉のためだけの巨大な歯車とそれを動かす水車があって、通行する時に水車に水を送ります。

 閉める時には歯車を逆に付け替えれば、扉は閉まる仕組みです」

「凄いな」

 単純に感歎するジェイスに、クレメントは軽く笑った。

「元々、この扉は開かずの扉だったんです。カスタ時代、城に出入りする王侯貴族の殆どが魔導師でしたから。彼等は城への出入りは魔法陣を使っていました。ですので、この正面門の扉というのは、ただの飾りだったんです」

 話しながら、クレメントは門を通り抜け玄関広間へと歩く。後に続いて入ったジェイスは、そこでも驚いた。

「何だよここは……。階段がねえの?」

 広間の上には、上階部分の廊下の張り出しが見えるのだが、そこへ通じる階段というものは、ここに存在しない。

「どっから上へ上がるんだ?」

「上部へ上がる階段は、この正面廊下の奥です」

 そう言って更に歩いて行く王太子に付いて、ジェイスも奥へと進んだ。

 王宮内部は、天窓しか無いわりに明るい。白一色の壁には、通常掛けられている歴史画や肖像画の類いは一切無く、代わりに、しっくいで、トール・アルフルの男女の等身大の精緻なレリーフが作られている。

 レリーフは、柱から柱の間の左右の壁に数体ずつ、様々なポーズで作られており、手に春夏秋冬の様々な花や植物を持っているところから、どうやら季節の移ろいを表しているようだった。

 約五メートル間隔の柱の前には、立てた槍を右手にした警護の兵が一人必ず立っており、クレメントとジェイスが通る度に踵を鳴らし礼をとった。

「……そういや、一緒に来た騎士達は?」

 シェイラも、彼等と一緒の筈である。ここを通らないとすれば、一体何処からはいるのだろう?

「王族以外の訪問者や城内の者は、他の出入り口を使っています。元々はそちらが魔法を使えない人々のための正式な出入り口だったのですが、ロンダヌス王朝になってから変えられました」

 やがて、廊下の突き当たりが見えて来た。

 先程のクレメントの言葉通り、突き当たりの右に上階への階段があった。

 が、それは通常王宮で見られる大階段の半分の幅も無い。

 左側には扉があり、その左右に騎士達が並んで待っていた

「よっ」

 ジェイスは、警護の騎士の列の最後に立っていたシェイラに声を掛けた。

「どっからどう、ここへ繋がるんだ?」

「正門右手に別な跳ね橋があるの。そこは騎馬専用になってたわ」

「なるほど」

 ジェイスはクレメントをちらりと見る。

「あー……。謁見なんだけど、シェイラも一緒で宜しいですか?」

 今更かしこまって尋ねるジェイスに、クレメントは苦笑しつつ頷いた。

「大事な客人の従者殿です。陛下もそこまで煩くはおっしゃいませんよ」

 ジェイスは頭を掻き、シェイラは口を押さえて笑う。

 居並ぶ騎士達も、ジェイスの態度に釣られて笑った。

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