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クレメントは嬉しそうに笑って頷くと、再び魔法陣に向き直る。ゆっくりと魔法陣に書かれた古代語を詠唱する。
「———……」
音楽のような、ジェイスには全く理解出来ない言葉は、終わるや否や真上の空中に白い筒状の光のベールを発動させた。
光は、よく見ると中に文字らしきものが無数に書かれている。文字はきらきらと輝きながら、円筒形の周囲を踊るように回っていた。
「では、ニーナミーナとパッドからどうぞ」
クレメントに促された二人は、少し戸惑った表情で互いを見る。が、パッドの方が先に意を決してニーナミーナの手を掴んだ。
「パッド……」
何か言い掛けた彼女に薄く笑い掛け、パッドはニーナミーナの手を引っ張るように魔法陣へと入る。
ベールの内に入った途端、二人の身体は光に溶けるように消えた。
「じゃあ、私がお先に」
二人が消えたのを見届けると同時に、シェイラがするりと陣の中へと消えた。
先を越された感のジェイスは、一泊遅れてクレメントを見る。王太子はいつもの頬笑みを浮かべ、悪戯っぽく小首を傾げた。
「どうします? 一緒に入りますか?」
「あ—、えーと……」
偉丈夫が答えぬ前に、美貌の王太子は滑るように身体を寄せた。腕を捕られ、ジェイスは一瞬狼狽える。
「さあ」
小声で促されて、彼はそのまま魔法陣の中に片足を入れる。
刹那。
光が洪水となって眼前に迫った。透けて見えていた向こう側の薄闇は掻き消え、代わりに真っ白な靄のような世界が広がる。
がそれも束の間、次の瞬間には再び薄闇がジェイスの視界に飛び込んで来た。
壁に幾つか作られた天窓から差し込む光にぼんやりと照らされた、巨大な棚。
中にはぎっしりと古めかしい書物が並んで
いる。
「……あれ?」
明らかにそれまでの景色とは異なる風景に、ジェイスは小さく疑問の声を上げた。
横で、クレメントが、そよ風のように笑った。
「着きました。ロンダヌスです」
なにやら、もう一組カップル誕生、の気配です。
次章からは、ロンダヌスでのお話です。