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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第六章 山の民2
71/153

12

 クレメントは嬉しそうに笑って頷くと、再び魔法陣に向き直る。ゆっくりと魔法陣に書かれた古代語を詠唱する。

「———……」

 音楽のような、ジェイスには全く理解出来ない言葉は、終わるや否や真上の空中に白い筒状の光のベールを発動させた。

 光は、よく見ると中に文字らしきものが無数に書かれている。文字はきらきらと輝きながら、円筒形の周囲を踊るように回っていた。

「では、ニーナミーナとパッドからどうぞ」

 クレメントに促された二人は、少し戸惑った表情で互いを見る。が、パッドの方が先に意を決してニーナミーナの手を掴んだ。

「パッド……」

 何か言い掛けた彼女に薄く笑い掛け、パッドはニーナミーナの手を引っ張るように魔法陣へと入る。

 ベールの内に入った途端、二人の身体は光に溶けるように消えた。

「じゃあ、私がお先に」

 二人が消えたのを見届けると同時に、シェイラがするりと陣の中へと消えた。

 先を越された感のジェイスは、一泊遅れてクレメントを見る。王太子はいつもの頬笑みを浮かべ、悪戯っぽく小首を傾げた。

「どうします? 一緒に入りますか?」

「あ—、えーと……」

 偉丈夫が答えぬ前に、美貌の王太子は滑るように身体を寄せた。腕を捕られ、ジェイスは一瞬狼狽える。

「さあ」

 小声で促されて、彼はそのまま魔法陣の中に片足を入れる。

 刹那。

 光が洪水となって眼前に迫った。透けて見えていた向こう側の薄闇は掻き消え、代わりに真っ白な靄のような世界が広がる。

 がそれも束の間、次の瞬間には再び薄闇がジェイスの視界に飛び込んで来た。

 壁に幾つか作られた天窓から差し込む光にぼんやりと照らされた、巨大な棚。

 中にはぎっしりと古めかしい書物が並んで

いる。

「……あれ?」

 明らかにそれまでの景色とは異なる風景に、ジェイスは小さく疑問の声を上げた。

 横で、クレメントが、そよ風のように笑った。

「着きました。ロンダヌスです」

なにやら、もう一組カップル誕生、の気配です。


次章からは、ロンダヌスでのお話です。

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