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「で、残ったのがジェイスとパッドですが……」
クレメントは、神妙な顔付きで自分を見詰めている金髪の若者を見上げた。
「パッドはイリヤ神殿警護の騎士ですよね。で、イリヤの信徒?」
「は、はい。警護の騎士は必ず朝夕の礼拝に参列します」
「なら問題無いでしょう。心配なら魔法陣に入る時、ニーナミーナと手を繋いでいらっしゃい」
「えっ?」
二人は、薄明かりでも分かる程赤くなって互いを見る。
シェイラが、ぷっ、と吹き出し、ジェイスは苦笑いしながら彼女を肘でつついた。
「さて、ジェイスです。あなたは、実は一番問題無い人です。何故なら、ランダス王家はイリヤの子孫、あなたはその直系ですから」
「俺は、傍系だぞ?」
「神々の子孫の判断は外見です。神々には神力と呼ばれる魔力があります。ですが、先程も申し上げた通り、これは人との混血の際ほぼ受け継がれません。でも、神々の子孫を見極める方法はあります。ランダスの場合はその——」
クレメントはいきなりジェイスの赤茶の髪に指を伸ばした。
肩に掛かっていた一房を、細い指がひと撫でする動きに、ジェイスの鼓動が早まる。
「赤茶の髪です。イリヤ神の髪も見事な赤茶でした。それを受け継ぐ者は、全て直系とみなされます」
「へええ。じゃ、他の国でも、神を先祖に持っている王家の人間には、それと分かる特徴があるって訳だ」
「はい。スピルランドの王族は、皆、愛の女神ファーレンの目の色を受け継ぎました。菫色です。パンドールで菫の瞳はスピルランドの王族だけです」
「へえ……。で、他には?」
聞き出そうと身を乗り出したジェイスを、シェイラが小突いた。
「今はそんな事に夢中になってる場合じゃないのっ。クレメント、説明もういいからさっさと行きましょう」
現状をわきまえた彼女の言葉に、クレメントもジェイスも「はい」と頷くしか無かった。
「では、行きましょう」
クレメントは立ち上がると、改めてリムに礼を言った。
「本当にお世話になりました。もしロンダヌスに来る事がおありでしたら、どうか訪ねて来て下さい」
「王宮に行くのは気が引ける。だが、何処かで会えればそれでいい」
ぶっきらぼうなサッドの若者の答えに、ジェイスはあははと笑い、パッドとニーナミーナはさもありなんと首を振った。