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「文字は少し読めるが、ウォームゆかりの神殿のものだからサッドにはその魔法陣は使えない。が、この場所の事は、部落の者は昔から知っていた。その魔法陣を使えば、危険な森を通らずロンダヌスへ行ける」
「確かにそうだけどよ。これの先って、一体何処なんだ?」
ジェイスの尤もな疑問に、パッドとニーナミーナも同意する。
「それに、これ全員が使えるんでしょうか? でん……、じゃない、クレメントさま?」
根が真面目なパッドは、何日一緒に居ても言葉が改まったままだ。
「『さま』は余分です、パッド。まずジェイスの疑問ですが、恐らくこれの先はロンダヌスのウォーム神殿内の何処かです。僕も、あちらの神殿で魔法陣を見掛けた覚えが無いので、何処に出ます、とは言えません。でも、先が開いている以上、この魔法陣から入って出られなくなるという事は、まずありません。
次にパッドの疑問ですが、この魔法陣の中央部分に、これを誰が使えるか、魔法文字で書いてあります」
もうひとつ、今度は光の魔法で炎より明るい明かりを作ると、クレメントは読みます、と魔法陣を指差した。
「『この門を通過せしもの。絶対神の名を讃えしもの、彼の神の祝福を受けしもの、彼の神を愛せしもの』」
「どういう意味なの?」
シェイラが濃い茶の瞳をくるりと動かす。
「『絶対神の名を讃えしもの』とは、ウォームの神官を指します。僕達の中には残念ながらウォームの神官はいませんので、これには誰も該当しません。次の『彼の神の祝福を受けしもの』は、ウォームの信者です。これも誰も該当しないです」
「あんたは?」
尋ねたジェイスに、クレメントは苦笑する。
「ロンダヌス王家は基本的にウォーム信徒ですが、ろくに礼拝に出ない王太子は、とてもウォームを崇拝しているとは言い難いですね」
「出てないって……、どんくらい?」
「新年の礼拝には生まれてこの方、恐らく一回しか出席した事がありません」
「それって、むちゃくちゃサボりって言われねえか?」
クレメントは笑っただけで、それには答えなかった。
「最後の『彼の神を愛せしもの』ですが、これにはまずウォーム配下の神々が該当します。それに伴って、配下の神々の神官、つまりイリヤの神官であるニーナミーナが当て嵌まります。
それからウォームを助けたトール・アルフル。その血筋の者が入りますので、僕とシェイラはそれに該当します」
「それは、魔力があるっていう意味?」
「そうです。元来この大陸の人間に魔力はありませんでした。魔力を持っていたのは神々とトール・アルフル、スモール・アルフル、そしてノルオールの子らです。その内、神の力、神力は人には遺伝しません。それとスモール・アルフルは人との混血自体を嫌います。
ですから、人が魔力を使えるというのは、トール・アルフル、もしくはノルン・アルフルの血を幾ばくかでも引いている、混血しているということの証です」
「なるほど。で、この場合は少しでもトール・アルフルの血を引いていればいいんだ」
彼女の故郷フィアスには、ノルン・アルフルが住んでいたという歴史は無い。従って故郷で魔力を持つ者は、全てトール・アルフルの血を継いでいることになる。
シェイラは納得した。




