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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第六章 山の民2
67/153

8

 幽霊の類いは、ジェイスは無茶苦茶苦手だった。

 幼い頃、すぐ上の兄に散々その手の話をされて揶揄われ、恐い思いをしたためだ。

 ランダス一の騎士と称えられるようになった今日でも、子供の頃の心傷はそう簡単には消えない。

 死者の明かり、などという、幽霊を連想させる名称に、怖々見詰める仄明かりは、しかし動くわけでもなく、相変わらず谷の上部を薄く静かに照らしている。

「滅多に見えるものでは無いのですが。それに、どうして現れるのかも分かっていません。ただ、魔導師には見る者が多くて、そのため、魔導師の間では、あれは死者がこの世に残した思いのかけらだろうと言われています。

 しかし、こんなに多く、しかもはっきりと見えるのは珍しいです」

 どうしてでしょうね、と、クレメントは首を傾げる。

 怖がる様子も見せないクレメントに、ジェイスも少し落ち着きを取り戻した。

「そ、そう言やあ……。戦場でもたまにうすーい光の球を見た事があったな。あれがそうだったのか? としたら、戦って倒れた奴らが、何がしかこの世に残した想い、だったのか……?」

 先の内戦で、多くの兵士が戦死した。

 若い兵士達には、夢も希望も山の様にあっただろう。また、壮年の騎士達には子や妻があり、家族への想いは何より強かった筈だ。

 そういった人々の『想い』があの明かりなのだとしたら、何と重たい光なのだろうか。

 そう思い至って、ジェイスは恐怖心よりも、逝った者達への憐憫を、強く感じた。

「何もこの世に想いを残さずに逝く人は少ないでしょう。でも、全ての人々が死んでこの明かりを残す訳ではない。どういうう作用なのか調べるのは、魔導師の役目なのかもしれません」

「この谷で死んだ連中、よっぽど未練があったのかな」

 ジェイスは、バルコニーの手すりに頬杖を付いた。

「未練、というより、心配じゃないでしょうかね。この谷はかつて、ノルン・アルフルの放った魔物に襲われた事がある、と、長老がおっしゃってましたから。岩ノ上部落の方々は代々、その故事から部落を守る気持ちが強いのでしょう。あの明かりはきっと、死してなお部落を守ろうという先人達の強い想いでしょう」

「守りの明かり、か」

 呟いたジェイスに、クレメントはふわりと笑う。

「いい事をおっしゃいますね」

「そ?」

「ええ。」

 見返したジェイスも、ふっ、と笑った。

 谷川から吹き上げる風が、またクレメントの髪を揺らす。

「そろそろ部屋へ戻るか?」

「そうですね。少し寒くなって来ました」

 クレメントは、羽織った白いガウンの前を両手で掻き合わせる。

 細い身体を抱くようにする彼の仕草に、ジェイスの心臓がとくん、と大きく高鳴った。

 このまま強く掻き抱いてしまいたい、という欲求を、どうにか押さえ付ける。

「あ……、あーと。あのさ、さっき言ってた事なんだけど……」

 己の欲望を誤魔化そうとして口を開いたジェイスは、飛び出した言葉に我ながらびっくりする。

 どうして今こんな質問をし出すのか、自分でも分からない。

 同じく驚いたように、クレメントが振り向いた。

「はい?」

「さっき、言ってたろう。自分は父親みたいな利口じゃないとか、何とか……」

「……ああ」

 途端、クレメントの唇にまたあの自嘲めいた笑みが浮かぶ。

「言葉通りです。僕は出来損ないの王族ですから。父のような賢王になど、決してなれません」

「そんな事——」

 ないんじゃないか、と言おうとした言葉は、クレメントに遮られた。

「もう寝ます。おやすみなさい」

 ロンダヌスの王太子はジェイスの返事を待たず、くるりと後ろを向いた。

 さっさと部屋へ入って行く細い背を見送っ

て、ジェイスは力無く言葉を掛けた。

「おやすみ……」

でかい図体して、ジェイスは案外怖がりです(汗)

お化け屋敷では、一目散に出口を目指すタイプ・・・

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