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「自然界の精霊は、この世界の『気』によって生きています。彼等はこの世界が出来たのと同時に生まれて、『気』を糧として世界と共に生きている。精霊に死はありません。基本的に、彼等は自分達の母体——草や水、風、火といったものが無くならない限り生き続けられる。
でも、妖魔はそういった物には属していない。あれらは僕達と同じ、物を食べて命を繋ぐ生き物です。そして、年をとれば死ぬ。ならば、あれらにも他の動物と同じような繁殖、つまり次代に命を繋ぐしくみがなくてはなりません。野の獣ならば、子を産み育てるために適当な巣穴を作ります。しかし、妖魔の巣穴というものは、リムさんも言ってましたが、
かつて一度も発見された事が無い。奴らを抹殺しようと、過去幾度も国々の兵士達がこのコルーガに入り戦いました。巣があるなら、それごと取り払おうと追尾したりも。ですが、ついに妖魔の巣というものは見付からなかった。
あれらはただ、獲物を求めて山中森林を徘徊し続け、最後には人に殺されるか仲間同士で共食いをして果てる。または老いて仲間に身捨てられる。
……おかしいと思いませんか? 獣と全く同じならば、繁殖しなければとっくに絶滅している筈です。それが、未だに妖魔は森に出没し、最近はその数が増えてさえいる。それは、もしかしたら……」
「異界から来てるかもって? サッドのガーディアンみたいに?」
クレメントは、頷く代わりにジェイスの焦げ茶の目を強く見返した。薄明かりの中で、淡く輝く銀の瞳に、ジェイスはふわり、と笑む。
「考え過ぎじゃねえ? 確かに巣穴が無いのは不思議だけどさ、それも妖魔なんだし。俺らが知ってる以外の方法で奴らは増えてるのかも知れないぜ。ほら、火の玉が切ると二つに増えちゃうみたいに」
言ってから、そんな事あったかなぁ、と、ジェイスは自分の言葉を訝しむ。
クレメントはひとつ溜め息をつくと、
「そう……、ですね。考え過ぎかもしれません」
と微笑んだ。
「ところでさ、ここって、夜なのにどうしてこんなに明るいんだ? やっぱこれも精霊の仕業か?」
「ああ——、この明かりですか」
クレメントは谷の反対側へと首を向ける。
「いえ、あれは精霊ではありません。明かりは両岸の岩肌から漏れています。普通こういう光は火の精霊の仕業なのですが、彼等は岩場のような場所を住処にしません。
どうしてそうなっているかは分かりませんけど、恐らくこれは死者の明かりかと」
「死者の、明かり?」
ジェイスは些かぎょっとなって対岸を見た。