6
真夜中。
ふと目が覚めたジェイスは、隣のベッドのパッドが寝入っているのを確かめて、バルコニーへと出た。
夏ではあるが、高地の夜はやはり肌寒い。下働きの娘が用意していてくれたガウンを肌着の上へ羽織り、しっかり前を合わせた。
眼下の川は、暗黒の中に静かに流れている。
しかし、谷の上部は何故かうっすらと光があり、仄明るい。
月光かと空を仰ぐが、月は二つ共今夜は顔を出していない。
それに、よく見ると光はそれぞれ小さな点になっおり、それが無数に集まっているらしい。
まるで、細かな光る虫が群れているようだ。
光の精霊がいる、という話を、以前宮廷魔導師の誰かから聞いた気がした。
が、それがこれなのかどうかは、ジェイスには分からない。
詳しい人間は隣室で眠っている。
ジェイスは何気なく隣室の扉を見た。
バルコ二ーは回廊のように、谷川に面した部屋を繋いでいる。
起きては来ないよな、と思った時、いきなり見ていた扉が開いた。
「おや。」
ゆったりとした白い夜着の上に同色のガウンを羽織って現れたクレメントに、ジェイスは一瞬どぎまぎする。
「ど……、どうしたんだ? 眠れねえの?」
愛しいひとの夜着姿に、男として嫌でも鼓動が高鳴る。
薄暗がりで、真っ赤になった顔色までは多分分からないであろうことに感謝しつつ、ジェイスは気持ちを立て直す。
「また、悪い夢でも見た?」
クレメントはふわりと美しい笑みを浮かべた。
「いえ。——色々と気になった事があって。夜風に当たれば頭が冷えるかなと、思って」
「そうなのか……」
と、呟いたジェイスに、クレメントは、いつもの笑顔を見せた。
「そちらへ行っても、いいですか?」
申し出に頷くと、クレメントは滑るようにバルコニーを歩いて来る。
緩い夜風が、寄って来た麗人の若緑の髪を揺らす。
仄明かりに見えるその風情に、ジェイスは更なる欲情を感じて目を細めた。
「で? 何、気になる事って」
「妖魔は、何処から来るんでしょうね?」
「は?」
予期していない答えに、大男は間の抜けた声を上げた。
クレメントはくすっ、と笑い、先を続ける。
「先程のリムさんの話です。サッド族は彼等の神から、妖魔を異界から呼び出して操る術を教えられた、っておっしゃってましたよね。それと、山の魔物は、増える時は突然湧くって。——あれは、どういう事なのかなぁと」
「ああ、それか」
色気のない話に、ジェイスはちょっとがっかりする。
ジェイスの気持ちを気付かぬ様子のクレメントは、妖魔の話を続ける。