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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第六章 山の民2
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4

「それにしても……」

 長老は眩しげな表情でクレメントを上げた。

 しげしげと貌を見られ、クレメントは曖昧に微笑する。

「……何か?」

「我等の祖を助けて下さったお方は、緑の髪に銀の目をされた方だったと、伝えられておりました。

 リムが、そっくりの方をお連れしたと先程言いに参った時は、まさかと思っておったのですが……」

「では、岩ノ上部落の祖先の方を救ったというのは、カスタの初代の王ですか」

 クレメントは、驚いた様子で銀の目を見張る。

「カスタの初代の王は、ロンダヌスに残る史書によると、僕と同じ容姿をしていたようです。その後の王や王族には、こんな色彩の方はいらっしゃらないので」

「おお、そうだったのですか。たったお一人で魔物を退治された、強大な力を持たれたお方だったと伝えられていました。カスタの王ならばそれも当然でしょう」

「容姿と魔力って、関係あるんでしょうかね?」

 それまで黙って長老とクレメントの話を聞いていたニーナミーナが言った。

「クレメントも、もの凄い魔力の持ち主だし」

 クレメントは、ちょっと困ったように苦笑いをする。

「僕は大した事はありません」

「でも、一昨日ボガードとユガーを風の魔法で薙ぎ払ったじゃない? あれなんか相当、凄くない?」

「初代カスタ王と比べるなんて、僭越です」

 魔力はクレメントの最大の武器であると同時に、最大の瑕でもあった。

 褒められても苦しいだけの事柄に、クレメントはつい苛立つ。

 言い方は柔らかいが彼にしては珍しく断固とした口調に遮られ、さすがのニーナミーナもこれは不味いと思ったらしく、黙った。

「しかし、」

 と、長老はクレメントの言葉をやんわり返す。

「現ロンダヌス国王陛下も、カスタの王に負けぬ賢王と、この山奥にまで噂が届いております。王太子殿下は、お見受けするところ、父君に似ておいでの賢明な方と存じますが」

 その途端。

 クレメントは笑顔を冷笑に変えた。

「僕は、父程賢くはありません。どちらかと言えば、王に向かない質だと、自分では思っています」

 まるで抑揚の無い、声音。

 あくまで穏やかさを失わない物言いだが、その裏には鋭い刃が幾本も隠れている。

 ジェイスは、背にひやりと冷たいものが流れた気がした。

 他の者も同じであったらしく、振った長老でさえ一瞬笑顔を凍り付かせた。

「それって……」

 果敢にも理由を聞こうとしたニーナミーナの言葉は、だが扉の開く音に消された。

「じいさま、母さんが、食事の支度が調ったから、客人達を広間へお連れしろと——どうした?」

 沈鬱な場の空気に、リムがきょとんとする。

「あー……、食事をご馳走して貰えるのか。こりゃついてるな」

 咄嗟におどけたジェイスを受けて、シェイラも「やりっ」とふざける。

「ニーナミーナに全部食べられちゃう前に、少しでも食べなきゃ」

「あっひっどーいっ! 私は人の分までは食べないわよっ!」

「どうだか」

「なによーっ!」

 女二人の色気の無いやり取りに、思わず男達が笑った。

 クレメントも、周囲が凍り付く冷たい笑顔を引っ込め、いつもの柔らかな微笑を浮かべた。

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