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「それにしても……」
長老は眩しげな表情でクレメントを上げた。
しげしげと貌を見られ、クレメントは曖昧に微笑する。
「……何か?」
「我等の祖を助けて下さったお方は、緑の髪に銀の目をされた方だったと、伝えられておりました。
リムが、そっくりの方をお連れしたと先程言いに参った時は、まさかと思っておったのですが……」
「では、岩ノ上部落の祖先の方を救ったというのは、カスタの初代の王ですか」
クレメントは、驚いた様子で銀の目を見張る。
「カスタの初代の王は、ロンダヌスに残る史書によると、僕と同じ容姿をしていたようです。その後の王や王族には、こんな色彩の方はいらっしゃらないので」
「おお、そうだったのですか。たったお一人で魔物を退治された、強大な力を持たれたお方だったと伝えられていました。カスタの王ならばそれも当然でしょう」
「容姿と魔力って、関係あるんでしょうかね?」
それまで黙って長老とクレメントの話を聞いていたニーナミーナが言った。
「クレメントも、もの凄い魔力の持ち主だし」
クレメントは、ちょっと困ったように苦笑いをする。
「僕は大した事はありません」
「でも、一昨日ボガードとユガーを風の魔法で薙ぎ払ったじゃない? あれなんか相当、凄くない?」
「初代カスタ王と比べるなんて、僭越です」
魔力はクレメントの最大の武器であると同時に、最大の瑕でもあった。
褒められても苦しいだけの事柄に、クレメントはつい苛立つ。
言い方は柔らかいが彼にしては珍しく断固とした口調に遮られ、さすがのニーナミーナもこれは不味いと思ったらしく、黙った。
「しかし、」
と、長老はクレメントの言葉をやんわり返す。
「現ロンダヌス国王陛下も、カスタの王に負けぬ賢王と、この山奥にまで噂が届いております。王太子殿下は、お見受けするところ、父君に似ておいでの賢明な方と存じますが」
その途端。
クレメントは笑顔を冷笑に変えた。
「僕は、父程賢くはありません。どちらかと言えば、王に向かない質だと、自分では思っています」
まるで抑揚の無い、声音。
あくまで穏やかさを失わない物言いだが、その裏には鋭い刃が幾本も隠れている。
ジェイスは、背にひやりと冷たいものが流れた気がした。
他の者も同じであったらしく、振った長老でさえ一瞬笑顔を凍り付かせた。
「それって……」
果敢にも理由を聞こうとしたニーナミーナの言葉は、だが扉の開く音に消された。
「じいさま、母さんが、食事の支度が調ったから、客人達を広間へお連れしろと——どうした?」
沈鬱な場の空気に、リムがきょとんとする。
「あー……、食事をご馳走して貰えるのか。こりゃついてるな」
咄嗟におどけたジェイスを受けて、シェイラも「やりっ」とふざける。
「ニーナミーナに全部食べられちゃう前に、少しでも食べなきゃ」
「あっひっどーいっ! 私は人の分までは食べないわよっ!」
「どうだか」
「なによーっ!」
女二人の色気の無いやり取りに、思わず男達が笑った。
クレメントも、周囲が凍り付く冷たい笑顔を引っ込め、いつもの柔らかな微笑を浮かべた。




