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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第六章 山の民2
62/153

3

 応接間は一階であるらしく、バルコ二ーの上には、また同じような構造の二階部分のバルコ二ーがあった。

「何とも、素晴らしい庭だな」

 強行軍の疲れも吹き飛ぶ見事な眺めに、ジェイスは素直に感歎する。

 彼の隣に立ち谷川を覗いたシェイラも、思わず笑顔を浮かべた。

「そうね」

「どんな高名な画家の一幅より、美しい絵ですね」

 別な向きのベランダからジェイスの前へ歩いて来たクレメントが、にっこりと笑う。

 いつもの作り笑いではない彼の素直な笑顔に、ジェイスはどきりとした。

「実は、この部落へ来てみたかったんです」

 意外なクレメントの告白に、ジェイスは目を丸くする。

「なんで?」

「ロレーヌ城の書庫の中の一冊に、サッドの部落について描かれた画本がありまして。とても美しい風景画だったので、本当にこんな景色の場所があるのかと、あるなら行ってみたいと、ずっと思っていました」

「じゃあ、山越えしようって言ったのは……」

 クレメントは茶目っ気のある笑みを浮かべ、室内へ目線を走らせた。

 クレメントと入れ替わるように部屋へ入っていったシェイラと、強行軍にくたびれて、白を基調にした細かいキルティングカバーのクッションを抱きソファに座り込んでいたニーナミーナをちらっと見ると、しぃっ、と、口元に指を立てた。

「他の方々、特に、ニーナミーナには内緒でお願いします」

 この非常時に、悠長なもんだな、と、ジェイスは半ば呆れた。

 お茶の支度をすると挨拶して出て行ったリムの妹とすれ違いに、老人が客間へ入って来た。

 灰色の毛織りの長衣を纏った老爺は、白木の太い杖をつきながらゆっくりと部屋の中央へと歩いて来る。

 動きこそ緩慢だが、その姿勢には毅然としたものがあった。

 ニーナミーナと同様に、疲れて彼女の向かい側に腰掛けていたパッドが、顔面を引き締めてすっ、と立ち上がった。

「もしや、岩ノ上部落の長老殿ですか?」

 老人は若い騎士の方を見ると、白い口髭の端を持ち上げ、笑顔で頷いた。

 パッドに習い慌てて立ち上がり掛けたニーナミーナに、

「ああ、どうかそのままで。お楽に」

「これは」

 やり取りを聞いていたクレメントは、足早に部屋へ入り長老の前へ進み出た。

「こちらからご挨拶に伺わなくてはならないのに……」

「なんの。暇な老人です。家の中を歩き回るのが、せめてもの運動ですので」

「突然お邪魔を致しまして、申し訳ありません。僕はロンダヌスの王太子、クレメント・エディン・ダルタニスと申します」

 優雅に膝を折った彼に、長老は驚いて声を張り上げた。

「おおこれはっ! リムがお助けした旅の方の中に、ロンダヌスの方がおられると申しておったが、まさか王太子殿下とは」

「ロンダヌスの、とは?」

 思わず尋ねたジェイスを、長老が振り向く。

「失礼。俺……、いや、私はランダスの騎士で、ジェストロッド・キリアンと申します。奇妙な縁で、今は王太子殿下のご旅行の供を務めております」

「左様ですか。——ロンダヌスのお方、と申したのは、トール・アルフルの血筋の方、という意味でしてな。遠い昔、この部落がノルオールの子らの放った強大な妖魔に襲われた時、我等の先祖を助けて下さったのが、トール・アルフルのお方だったと、代々言い伝えられておるのです。

 ですので、我等岩ノ上部落の者は、ロンダヌスの方々には、他のサッドの部落の者より親近感を持っております」

「なるほど」

 サッド族の大半は、宗教も慣習も異なる里人に対し一線を画している。

 またロンダヌスを初めとする、絶対神とその配下の神を信じる国々の民も、サッド族を『得体の知れない民族』として距離を置いていた。

評価ポイントが増えている・・・


こんなトロい物語を気に入って頂いて、光栄至極です!

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