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サッドの男達が言った通り、リムのガーディアンは強かった。
ボガードもユガーも、ガーディアンにこっぴどくやられたのが効いたのか、道中気配はあっても、ジェイス達に二度と近付いては来なかった。
とは言え、山の民サッド族の道は普通の旅人が歩くような整った道ばかりではなく、一行は苦難を強いられた。
マンティコアを先頭に行かせ、巨大な馬の背に自分とジェイス達の荷物を乗せて、リムは斜面の森をどんどんと進む。
リムについて歩く一行は、獣道とも言えぬ薮の道を行軍させられ、頑健なジェイスでさえ不覚にも顎が上がった。
だが、はぐれればまた妖魔に襲われる。それが十分に分かっているので、一番文句を言いそうなニーナミーナでさえ、必死にリムの後について歩いた。
その甲斐あって、出会ってから僅か二日で、ジェイス達はリムの住む岩ノ上部落に着いた。
そこは深い山間の谷に面した断崖を、巧みに利用した要塞だった。
何世代もかけて空けられた住居用の洞穴は、複雑な通路で繋がっている。所々に妖魔の侵入を防ぐ仕掛けがあり、知らない人間が通ろうとすれば、罠に掛かって命を落とし兼ねない。
通路の入り口である崖の上に来ると、リムは馬の背から荷物を下ろした。
「ここから先は、自分達で担げ」
言われた通り、ジェイス達は渡された自分の荷物を背負う。
リムは再び、胸に下げた、音の出ない笛を吹いた。と、馬とマンティコアが瞬く間に虚空に掻き消える。
「今のは?」
驚いて、銀の目を見開いたクレメントに、リムは、
「ガーディアンを返しただけだ。——行くぞ」
と、何事も無かったように背を向けると、自分の荷を肩に担ぎ、歩き出した。
部族長である長老の住まいは、断崖の中程に突き出たテラスに作られた、岩と木の館だった。
洞窟内の、幾重にも折れ曲がった階段を下り、一行は漸く館の門に辿り着いた。
「お帰りなさい、リム」
出迎えたのはリムの母親と妹、それと数人の下働きの男女だった。彼と同じく、黒い髪と瞳を持った母と妹は、五人もの外部からの客に目を丸くした。
「突然押し掛けて、申し訳ありません。山中で妖魔の襲撃に遭ったところを、リムさんに助けて頂きまして」
「まあ、それはようございました。——すぐにお客さまをお迎えする支度を致しますわね」
恐れ入ります、と返したクレメントに、リムの母親は応接間で待ってくれと丁寧に頭を下げた。
リムは狩り仕度を解きに自室へ行き、一行は妹の案内で応接間へと移った。
そこは、バルコ二ーから谷川を一望出来る部屋だった。
眼下には清流があり、その両側に崖から直接生えた木々が斜めに川面を臨んでいる。高地の短い夏を象徴するように、木々には色とりどりの花が咲き、散る花びらが清流の上に綾模様を描いている。
ソファや卓といった調度は質素な木製でけっして贅をつくしたものではないが、あでやかな自然の景観がどんな王宮よりもこの館を豪奢なものにしていた。