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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第一章 魔法石の盗難
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6

 背の高い人物だった。周囲から頭一つ半は、飛び出している。他の信者とは違い、灰緑色の綿ものの外套を着ている。外套のフードをすっぽりと被っており、全く顔が見えない。

 長い外套は、その他の身体の部位も全て覆い隠している。が、背丈と肩幅から察するに男であろう。

 それにしても、南国ロンダヌスの初夏に、薄絹ではない外套のフードを被っているのは、相当暑い筈だ。

 礼拝堂は明かり取りの窓の他に、空調の穴が幾つかあり、空気が常に出入りしている。そのせいでさほど暑くはないが、それにしても、あれはやり過ぎではないか?

 ジェイスが男を見ていたのに気が付いたシェイラが、そっと頭を寄せて来た。

「一番後ろの人? 随分背が高いわね。……でも、初夏のロンダヌスにフード付き外套なんて、怪し過ぎよね」

「そう、思うよな」

 男は、背の割に身体に厚みが無さそうだった。

 剣士や騎士なら、重い鎧を着込む上、剣を常に持ち歩くため、嫌でも筋肉がつく。

 外套の動きから察するに、どうもそういった鍛錬をしているようではない。

 何者なのだろうか、とジェイスが眉間を寄せた時。

「——の魔導師……」

「え?」

 クレメントが深刻な声で呟いた。ただならぬ様子を感じて振り向いたジェイスは、先程の笑顔とは打って変わった真剣な美貌に、どきん、と鼓動が跳ね上がる。

「なん——」

 またも起こった妙なときめきを何とか抑え、聞き取れなかった言葉を問おうとした声は、だが、突然の叫び声に掻き消された。

 叫んだのは、団体の前列の信者達だった。

「魔法石がっ!」

「小箱が宙に……っ!」

 ジェイスとシェイラ、それにクレメントは、弾かれたように祭壇を見た。

「ジェイスっ、小箱がっ!」

 シェイラが驚いて指差した先で、先程台座の上にきちんと乗っていた魔法石の箱が、台を離れ、ふわり、と浮いていた。

 ジェイスは祭壇へ行こうと動き掛けた。

「お待ちなさい」

 クレメントが、彼の腕を掴んで止める。直後、小箱がぱんっ、と軽い音を立てて割れた。

 透かし彫りが美しい箱は、見るも無惨に砕け、細かい破片となって落下する。

 再び、団体から悲鳴が上がる。

 最初の騒ぎを聞き付けた、神殿の外回りを守っていた衛兵が数人、入って来た。

「何事だっ」

 兵士長らしい男が、団体の責任者である神官に歩み寄る。

 神官は震えながら、しどろもどろに答えた。

「こっ、小箱が浮いて……、割れて……」

「何だ?」

 訳が分からず兵士長が聞き返した時、隣に並んだ兵士が声を張り上げた。

「兵士長っ! 魔法石が浮いておりますっ!」

 兵士長が祭壇を見る。ジェイスも、釣られてそちらを向いた。と、台座の四、五十センチ程上に、大人の男の親指の先程の石が浮いていた。

 砕けた外側と共に落ちなかった魔法石は、先刻、箱の中から発していた淡い卵色ではなく、赤く禍々しい色の光を放っている。

「なんで……?」

 ジェイスとシェイラは、異口同音に言った。

 魔法石は唖然と見詰める人々の眼前で、きらりと強い光を放つと、次の瞬間、こつ然と消えた。

 一泊置いて。

 兵士達も含め、居合わせた人の大半が、大恐慌に陥った。

 教典を読み上げる神官の声がよく響くように設計されている礼拝堂は、人々の阿鼻叫喚を増幅する。

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