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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第五章 山の民
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10

「ジェイスは、どうなのですか?」

 むっつり黙り込んだ偉丈夫の気を引こうと、クレメントは話し掛けた。

「俺は……、別に。母はとうに亡くなってるしな」

「父上とは?」

「普通。大体俺は三男で、跡継ぐ立場じゃないからな。親父も母もほったらかしと言えばそうだったぜ。一番上の兄貴だけは煩かったが」

 ジェイスの長兄、現カーライズ公の顔を思い浮かべ、クレメントはさもありなん、と微笑んで頷く。

「まあ、僕も似たようなものです。母上より話すとはいえ、父上が僕をお嫌いなのは母上同様なので。話すのは、もっぱら妹とばかりでした」

「って、もしかして、お父上とは実務の話しかしてねえとかじゃないだろうな?」

「よくお分かりですねえ」

 おどけた王太子に、ジェイスは盛大に顔を顰めた。

「マジかよ?」

 と、いう事は、家族としての会話は本気で皆無なのか? と、ジェイスは突っ込み、クレメントは「ええ」と肯定した。

「そこまで、冷えきってる訳?」

「うーん、そう言われればそうかも知れませんねえ」

「その上勝手に出歩いてて、ほんとは、ほんとーに不味いんじゃないのか?」

 国王が、実子の王太子を毛嫌いしているだけならともかく、そんな状況で当の王太子が供も無しにふらつくなど、他国なら大問題である。

「他に世継ぎ候補がいたら廃嫡とか……」

 暗に、他の気に入りの妾妃に子供がいて、そっちを可愛がっているのでは、というジェイスの問いを、クレメントはあっさり否定した。

「ああ、それはないです。ロンダヌスでは母親の身分に関わりなく、男児は年齢順に家督相続の権利を得ますから。それに、現国王には僕以外男の子供はいません」

「なんだ、妾妃に子供がいないのか」

「いえ、妾妃がいないんです。父には母以外、愛した(ひと)はいません」

「へえ?」

 珍しいものでも見るように、ジェイスの、焦げ茶の目が見開かれる。

 大概、何処の国の王でも正妃の他に一、二人は妾妃を持っているのは、クレメントも知っている。

「ランダスじゃあ、先々代の国王に三人の妾妃がいて、それぞれ王子がいたんで、一時は家督争いに発展しそうになったんだ。国王が、家督は年の順と決めたんでその時は内紛を免れた。が、その跡を継いだ先代国王が、まだ8歳だった現国王ソルニエスを残して早死にしたんで、内乱になった」

「そう、だったのですか」

「まあ、何人も跡継ぎがいると火種だよな」

「そんな事は……。ロンダヌスは、確かに他国とは少し違っていると思いますけどね。特に王家は、王位継承権が年齢と家柄順で厳密に決まっていますから。逆に言えば、王が妾妃を持たなくても、例え正妃に男児がなくても継承者がないという事態は、まずありません」

「へー、そうなんだ」

「妾妃は、むしろ王位継承権のある公爵や伯爵の方が、多く持っています。彼等には継承権の他に家督相続の責任がありますから」

「そうだろうな。当主が王になっちまったら、次がいなけりゃ家が無くなっちまうもんな」

「いえ。当主は王位継承から外されています」

「ええっ? そうなのか」

 それも普通ではない。少なくともランダスでは公爵伯爵になっても、血統があれば王位は継げる。

「当主には、その家を守り次代に繋ぐ大事な役目があります。なので、当主となった者は、自動的に王位継承権がなくなります」

「……それで、よく家督争いとか起きねえな」

 当主は王位継承権が無いのなら、必然的に嫡男は一番不利になる。

 公爵家の家督を継ぐより、王位に就く方が権力は測り知れない程大きい。

 嫡男が王位に意欲があった時には、普通とは逆に廃嫡騒ぎなどが起こりそうだが。

 ジェイスの言に、クレメントは軽く笑んで小首を傾げる。

「何ででしょうね? そう言った騒動は過去一度も起きた事は無いようです。……多分。トール・アルフルが権力欲が乏しいからかも知れません」

「はあ……」ジェイスの、気の抜けた相槌に、クレメントは小さく吹き出した。

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