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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第五章 山の民
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6

「なんてこった」ジェイスは溜め息をついた。

 予定していた道程、サゼからアストランスの森の新都までは、コルーガ山地の裾野でなだらかだが、森が深く、山地ほどではないが妖魔が多く出没する。

 そのルートより、さらに妖魔の少ないハイライへの道が危険と言うのならば、取るべき方法はひとつしかない。

 しかし。

「ここからランダスへ引き返すってのは、どうにも時間が掛かり過ぎだな」

「そうですねえ」

 クレメントが腕を組む。

「何とか、なりませんかねえ」

 クレメントが、サッド族の男達をちらりと見た。

 灰茶の毛の帽子の男は、クレメントの意図に気付き、渋面を作った。

「おまえ達は山道を通る積もりか? 死ぬ気か?」

「どうしても、急ぎロンダヌスへ行く用があるんです。道案内をお願い出来ませんか?」

「駄目だ」

 男は手を振った。

「サッドでさえ通るのが大変なんだ。慣れない者を連れてなど、無理だ」

「そこを何とか……」

「クレメント」

 ジェイスが止める。

「彼等が駄目と言ったら、駄目だ。他の方法を考えよう」

「そう、ですか……」

 いかにも残念そうに、クレメントは項垂れる。

 男とはいえ絶世の美人が悲しげに俯く姿に心を動かされたのか、年嵩の男が言った。

「……リムなら、道案内を出来るかもしれない」

「リム?」

「岩ノ上部落の長老の孫だ。年は若いが強いガーディアンを持っている」

「ガーディアン……?」

 シェイラが聞き返した。

「俺達は妖魔と戦うためにガーディアンを使う。ガーディアンは使う者の気力によって強さが違う。リムのガーディアン以上のは、俺達の中では見た事が無い」

「そのリムさんには、何処へ行けば会えますか?」

 だが、男達は分からないと答えた。

「サッドは獲物を求めて山の中を彷徨う。長い時は三か月、四か月と。今、リムが何処を歩いているのかは、山の精霊でも分からない」

 サッド族の男達はそれだけ言うと、額に人さし指と中指を当てる、彼等独特の挨拶をして店を出て行った。

「岩ノ上部落のリム……か」

 男達の背中を見送りながら、ジェイスは呟いた。

「けど、以外と旨く情報が入りましたね」

 先程の打ち萎れた表情とは打って変わって、いつもの微笑で見上げてくるクレメントを、ジェイスは驚いて見る。

「何だって?」

「妖魔がどれくらい増えているのかは、サッド族の動きで分かりました。彼等がハイライ回りをする程となれば、相当な数です。けど、中にはそれをものともしないサッド族もいる、と。という事は、対処の仕様はあるという事です」

「って言ってもなあ、あっちは山の専門家、こっちはド素人だぜ?」

 ジェイスの苦言に、クレメントは真面目な顔で頷く。

「ええ、確かに。出来れば妖魔の大群なんかに出くわしたくはありません」

「こっちの都合通りにはいかんさ。……サッド一のガーディアンの持ち主、か」

「何処かで、何とか会えませんかね……」

「さあな。奴らが無理ってんだから、無理かもな。もし、山中の街道で行き会えたとしたら、それこそウォーム神のご加護かもよ」

 二人の話が一区切りついたのを見計らって、シェイラが店の奥へと動く。

「とにかく、買い物済ませましょ。フィアスも危険だっていうなら、なおさら薬は必要だし」

 冷静な提案に、男二人は黙って頷いた。

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