表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第一章 魔法石の盗難
5/153

5

「ところで、さっき言ってた、魔法石を盗むのは無理っていうのは何故なの?」

「ああ、それはですね、あの小箱には帰還の呪文が掛かっているんですよ」

「帰還の呪文?」

 魔法は使えないので、当然ながら聞き覚えのない言葉に、ジェイスは首を捻る。隣でシェイラは「ああ」と手を打った。

「大切なものに掛けておけば、盗まれたり何処かに置き忘れたりしても、その品は必ず手もとに帰って来るっていう魔法よ。——っと、それを知ってるって事は、あなた、魔導師?」

「まあ、端くれではあります」

 短く答えたクレメントに、シェイラはふうん、と、うさん臭げな顔で頷いた。

「でも、帰還の呪文は、古代語魔法でも中級で、現在の魔導師で呪文を使える人は少ないって話だけど?」

 表情と、語尾が強くなるシェイラの口調に、ジェイスは、彼女もクレメントを曲者と睨んでいるらしいと分かった。

「そうですね。過去、多くの強い魔力を持った魔導師を排出したロンダヌスでも、古代語魔法を使いこなせる魔導師は、もう幾人もいません。

 この小箱に帰還の呪文を掛けたのは、七賢者のケイト・クリスグロフだと聞いています。ケイトの他に、アルクスク大神官が神聖魔法の選別の呪文も掛けているそうで、魔力の無い者、また神聖魔法が使えない者が蓋を開けようとしても、開けられません」

「……本当に詳しいのね」

 あからさまに疑いの響きを含ませたシェイラの相槌に、クレメントは、だが、しれっとした表情で答えた。

「ロンダヌスの王宮図書館には、以上のような伝記の書物が、山とありますから」

「って事は、あんた、宮廷魔導師か?」

 ジェイスの質問に、クレメントは一瞬、銀の美しい瞳を見開いた。が、すぐに作り笑いに戻した。

「ええ……、そんなところです」

 この美しい若者が泣く様子は、どんなにか甘く切ないだろう、という余計で不埒な思いが、瞬間ジェイスの頭に浮かぶ。

 男色の素養は、自分には決してない、とジェイスは思っている。

 だのに。

 降って湧いた自分の妄想に狼狽えて、ジェイスは思わず、焦げ茶の瞳を天井に向ける。

「あー、と」

「なに、変な声出してるの?」

 シェイラに聞き咎められた直後、正面入り口がどやどやと騒がしくなった。

 両開きの白い木製の扉が大きく開かれ、三十人程の人間が堂内へと入って来た。

 地方からやって来たウォーム信者のようだった。老若男女混ざっているが、皆揃いの白木の杖を持ち、やはり揃いの生成りの七分丈袖の上着を着ている。

 先頭の、中年の地方神官が、ドーム型の礼拝堂一杯に響くどら声で、一同に指示を出した。

「はいっ、正面祭壇に参りますっ! 列を作り順序良く進みましょうっ!」

 信者達は楽しげにしゃべりながら、ずんずんと三列横隊で祭壇に進んで来た。

「はいっ、先の方、ちょっと申し訳ありませんが、我々にも礼拝させて頂けませんかっ?」

 人の列と、神官のどら声に圧倒されて、ジェイス達は場所を明け渡した。

 右の壁側へ移動しながら、ジェイスは、ふと、一団の最後尾に目が行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ