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「まあ、仕方ねえな。俺らの力だけでロンダヌスまで行くしか」
「お兄さん達、山越えをする積もりなのかい?」
不意に、彼等の斜め前に座っていた商隊の一人が声を掛けて来た。
荷を守る傭兵らしい男に、ジェイスは「ああ」と愛想良く笑った。
「ちょいと急ぎでさ」
「止めときな。この間までサッドの連中がレクに来てたんだが、言ってたぜ。夏に入ってからどういう訳か妖魔の数が急に増えたって」
「ほんとかよ」
ジェイスは眉を寄せた。
「ああ。他にも、この前ロンダヌスから来たって商隊に聞いたんだが、南回廊を抜けた辺りでボガードの大群に出っ食わして、案内のサッドの妖魔二体が餌食になったってよ。サッドの妖魔っつったら強いので有名じゃねえか。それがボガードに襲われて歯が立たないってんだからただ事じゃねえ。商隊も用心していつもの倍の傭兵を連れてたんだが、半分がやっぱり妖魔に殺られたってよ」
「多いだけじゃなくて、妖魔が狂暴化しているんでしょうかね……」
柳眉を寄せたクレメントに、話した男が「そうみてえだよ」と頷いた。
「それで、サッド族がレクに来ていないのか……」
パッドが深刻な表情で呟く。
「そんな場所に突っ込んでいって、大丈夫なんですか?」
「何とも、言えねえな」
若い騎士の心配に、ジェイスは首を振る。
「確かに、回り道でもアストランスに抜けてフィアスから入った方が得策かもな」
「そう、ですね。急がば回れ、とも言いますし」クレメントも、渋々という表情で同意する。
「えっ? じゃあ山越え止めるの?」
初めから反対していたニーナミーナの顔がぱっと明るくなる。
「今聞いた状況ですと、フィアス回りをした方が安全のようです」
「やったあっ! じゃ、そうと決まれば腹拵えねっ。 あ、すいませーんっ!」
彼女はカウンターの店員を大声で呼び付ける。
慌ててやって来た店員から羊皮紙のメニューを受け取ると、上から一つ飛ばしに3分の1をさっさと注文した。
「よっく食べるわねえ」
呆れるシェイラにメニューを渡しながら、ニーナミーナはさらりと言った。
「腹が減っては戦は出来ない、よ。ね、ジェイス?」
「どうして俺に振るんだっ?」
「だって、この中で私の次に食べるのって、ジェイスじゃない?」
「おまえ〜〜、それが若い娘の言う台詞かよ〜〜」
呆れ半分、脱力して食卓に突っ伏すジェイスを、クレメントとシェイラが笑う。
「ニーナミーナっ!」
パッドが嗜めるが、当のニーナミーナは涼しい顔で、再びメニューに目を通していた。
ニーナミーナは大食い娘です(苦笑)
モデルがいたりしますが、内緒です(本人に怒られるし^^;)