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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第四章 囮
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10

 クレメントはもう一度水盤の上に手を翳すと、今度は左手の人さし指と中指を口元立て、呪文を唱え始めた。

「……永き役目を終え元の姿に戻れ。還元」

 水晶から先程の光が再び立ち上る。が、今度は強く光ったと思った途端、光は周囲に霧散した。

 目の裏に残る光の残像を振り払おうと、ジェイスは頭を強く一振りする。

「……何、やったんだ?」

「カスガの魔法を解きました。こうすれば、いつかここに来るかもしれない、これを見る事の出来る魔導師が、古い情報に惑わされずに済みます」

 さて行きましょう、というクレメントの言葉で、一同は館の外に出た。

 賊が内部を荒らした事を、王城とイリヤ神殿に伝えるよう警備の騎士に言い、彼等はそれぞれ馬に乗った。

「さて、いよいよロンダヌス。カスタ遺跡か」

 ジェイスは馬首を戻り道に向ける。

「いえ、カスタへ行く前に一度ロレーヌへ戻ります」

「また何で?」

「僕は、現在家出中の身なので」

 クレメントは苦笑する。

 ジェイスは「あ、そうか」と頭を掻いた。

「一応親父さん、じゃない、ロンダヌス国王陛下に事のあらましを伝えないと。って、俺らも陛下に謁見すんのか? ……めんどー」

 ジェイスっ、と、シェイラが睨む。

 クレメントは、口元を拳で押さえつつ、笑い声で説明した。

「それもそうですが、カスタの通行証を貰うのが第一です」

「へ? カスタって、入るのに通行証が要るの?」

 ニーナミーナが目を丸くする。

「腕に覚えがあれば、誰でも入れるんだと思ってたー」

「そうは行きません。極めて危険な場所ですので、万が一の場合、誰が入っていたのか確認が取れませんと」

「結構、面倒なのね」とは、シェイラ。

「まあ。通行証を発行してもらう時に、行くパーティの力量も調べられます。でもこのメンバーならそれは何も問題ないでしょう」

「ところで、ロンダヌスまでのコースは?」

 パッドが後ろから尋ねる。

「そうですね。……最短コースは山越えですか」

「ええっ? コルーガ山地は妖魔の巣よっ?」

 ニーナミーナが抗議する。

「アストランス南道を通っても妖魔は出るぜ。同じなら、山超えた方が確かに早い」

「そんな……」

「大体、カスタ遺跡にぜひ行きたいって喜んだ人が、街道の妖魔くらいでどうしてびびるの?」

 眉間に皺を寄せ、ずいっ、と顔を近付けて来たシェイラに、ニーナミーナはしどろもどろに言い訳する。

「それはぁ……、確かに、カスタも妖魔の巣だけど……。そっ、それはそれよ。出会わない方法があるならその方がよっぽどいいじゃない?」

「確かにな」ジェイスは、ひとつ息を吐くと、クレメントに訊いた。

「飛翔の魔法って、何人まで運べるんだ?」

 あれは、目が回る。本音はやって欲しくないが、コルーガ山地の危険地帯を回避するには、致し方ない選択肢のひとつだ。

「そうですねえ」クレメントは、小首を傾げて、頬に手を当てた。

 どこから見ても、大輪の白薔薇の風情に、ジェイスは少しどころではなくドキドキする。

「五人、ですか。やったことは無いですが、多分運べると思いますよ?」

「そっ、そっか。なら、飛翔の魔法で……」

「でも、あれって物凄く目が回るのよねえ」

 シェイラが、ジェイスと同じ感想を呟く。

 多分、魔法慣れしていない人間にはきついので、クレメントは敢えて選択しなかったのだろう。

「どんな風に?」ニーナミーナが、恐々といった顔でシェイラに尋ねた。

「空の上を上下左右関係なくぐるんぐるん回って飛んで行くの。だから、着地した後は、しばらく立てないわよ?」

「ひぇーっ! 嫌っ!! 私、目が回るのと何処かから落っこちるのは、絶対ダメっ!」

 頭を抱え、ぶんぶん振って拒絶するニーナミーナに、クレメントは、

「なら、山越えしかありませんねぇ」と微笑んだ。

「えーっ、そんなあっ!!」

「嫌なの? あっそう。ならいいわよ? 無理に一緒に来いとは言わないから」

 シェイラが、渋面を揶揄い笑いに変える。ニーナミーナは、ぷっ、と、膨れっ面になった。

「いいわよう、行けばいいんでしょっ、行けばっ。何よっ、ボガードの一匹や二匹、すぐに頭かち割ってやるわよっ」

 シェイラが吹き出す。ジェイスも、がははと笑い声を上げた。

 笑いを堪えつつ、クレメントが言った。

「じゃあ、山越えで決まりという事で。出発しましょう」

ニーナミーナ、思いっ切りボガードの頭をかち割りそうです(苦笑)

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