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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第四章 囮
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9

 そこから程なくして、カスガの館へ着いた。

 館は、思っていたよりもこじんまりとした建物だった。

 フィルバディアの焼けた煉瓦を再利用したらしい壁は、色もまちまちで、所々欠けて落ちている。

 窓の数から察して部屋数は僅かに四部屋、かの有名な七賢者の館とは思えないくらい小さい。

 一行は馬を降り、館の前の馬繋ぎに手綱を結わえた。

 正面玄関には兵士が二人と騎士が一人、警備に当たっている。

 ジェイスとシェイラが騎士に近付いた。

「中を入れて貰えるか?」

 騎士はジェイスの顔を見て、相手が誰だかすぐに分かったようである。快く承諾した。

 館は、玄関ホールなどはなく、扉を開けるとすぐに書斎だった。

 壁一面が書棚となっていて、ぎっしりと魔道書やその他の書物や巻いた羊皮紙で埋まっている。

 入り口の正面の書棚の前に大きな文机があり、その上にも書物が幾つか乗っていたのだろうが、今は床に転がっていた。

 床に散乱していたのは、書物だけではなかった。

 様々な書類、筆記用具、引き出し、置物などまでが、壊れたり転がったりしている。

「こりゃ凄いな」

 足の踏み場も無い程に荒れた部屋に、全員が驚いた。

 が、一番驚いたのは警備の騎士だった。

「これは一体……?」

「恐らく盗人でも入ったんだろうさ」

 ジェイスの言葉に、パッドと同じくらいの年頃の騎士は首を振った。

「そんな事はあり得ません。我々が毎日毎晩、周囲の警護に当たっておりますから。賊が忍び込む物音や人影などが見えたら、絶対に見逃したりはしませんっ!」

「では、魔法で忍び込んだのでしょう」

 クレメントは、部屋の周囲をゆっくり見回した。案の定、リトの魔法陣に残っていたものと同じ魔力の気配が、僅かに残っている。

「この館には魔法防御が一切掛かっていませんから、魔力のある魔導師なら簡単に入れます。そして、僕達が追っている人物も、強大な魔力を持っているであろう、魔導師です」

「そんな魔導師が……、どうしてこの館に?」

「探し物は、魔法石よ」

 ニーナミーナが腰に手を当てる。

「でも、これだけ探し回っても、ここには無かったって訳ね」

「しかし、手掛かりは見付けたようですね。……そこに」

 クレメントは、文机の隣の、机と同じ高さのチェストの側へ寄った。

 チェストの上には、水の入った銀の水盆が置かれ、その中に大人の拳大の大きさの水晶球が入っている。

 クレメントは水盤の上に手を翳した。と、白い光が、水晶球から発する。

 光の一筋が立ち上がり、横に広がると、灰色のローブを着た中年の魔導師の姿になった。

 水晶に閉じ込められていたカスガの影は、にやりと痩せた顔を歪ませる。

「この水晶の魔法書を見る事が出来たあんたは、恐らく相当の魔力を持ってるだろう。そこで、あんたに頼みがある。イリヤ神殿にある私の魔法石『颯』を、カスタの遺跡へ持って行って欲しい。

 あれは、持ち出すべきではなかった。何のために作られたのかもよくわからないのに、我等は無謀にもあの石を砕いてしまった。そのために無用の戦いも起きた。

 私の石ひとつ返したところでどうにもなるものではないが、どうか、出来れば願いを聞いてくれ。石は、神官長の執務室の隣にあるらしい。

 カスタ遺跡で魔法石が置かれていたのは、遺跡中心から東に少し寄った、地下通路に面した一部屋だ。どうか、頼む。

 ……私は、これからファーレンに会いに行く。さらばだ」

 ふっと、カスガの影が消えた。

「これを、賊も見たって事か……」

 ジェイスの呟きに、クレメントが「そうですね」と頷く。

「どうして見終わったあと壊さなかったかは謎ですが。でもこれで、僕も知りたかった情報が聞けました」

「情報って?」

「魔法石が、元々カスタの遺跡のどの辺りにあったか、です。地下通路、という事は、ライズワースは地下に呪文発動の迷宮を造ったという事になります」

「ライズワースの地下迷宮って、何?」

 初耳な話に、顔の真ん中に大きなハテナをくっつけているニーナミーナに、シェイラは片目を瞑った。

「後で教えてあげる」

ライズワースの地下迷宮。


核心は、まだまだ先です(汗)

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