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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第四章 囮
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7

 銀の水盆の表面に映るジェイス達の姿を、男はじっと見詰めていた。

「……キリアン伯、か」

 彼等の姿は、『眼鏡』と呼ばれる魔法を掛けられた夏虫を通して、水に映し出されている。

 男が現在居るのは、イリヤ神殿近くの廃墟となった商人の館。クレメントの予測通り、彼は王の大剣奪取の頃合いを狙ってランダスに留まっていた。

 水を揺らせば消える魔法の景色を、男は水盤の縁を叩いて終わらせた。

「さて……、厄介な事になったな」

 昨日からこの館に入り、『眼鏡』を使って城の内部を監視していたのだが、まさか魔法石を『囮』にするとは思わなかった。

 しかも、預かったのはあのジェイス・キリアン伯である。

 二十人斬りの騎士。

 ジェイスがランダス一の剣豪であるのは、男の耳にも伝わっている。

 生半な相手ではない。魔法を使うにしても、用意周到に行わなければこちらが殺られてしまう。

 おまけに、ロンダヌスの王太子にして強大な魔力を持つクレメントまでが、同行している。

「大剣を、無理にでも急いで奪うべきか、否か……」

 思案の目を、廃墟の破れた硝子窓へと移す。

 その時、不意に目の前に少女の姿が現れた。

「——アーカイエス様」

 黒髪に黒い瞳の幽鬼のような少女は、儚げな声で男を呼んだ。男——アーカイエスは赤い目を僅かに細める。

「ララか」

「はい」

 少女は、やはり弱々しい声で答えた。

「昨日のウォーム神殿での魔法、よく出来た。ご苦労だったね」

 ララは、実はロンダヌスに居る。昨日ウォーム神殿で、ジェイス達を犯人に仕立てようと神聖魔法を唱えたのは、彼女だった。

 アーカイエスは、ララと遠距離でも会話出来るよう、自分の血を固めて作ったペンダントを彼女に持たせている。

 ララがそれに向かって話せば、アーカイエスの眼前にぼんやりとだが少女が現れる。

 ぼうっと霞むララは、心配そうな表情でアーカイエスを見詰めた。

「……本当に、あれで良かったのでしょうか?」

「何の、話だ?」

「七賢者のお一人、アルクスク大神官の魔法石を持ち出すなどと……。やはりしてはいけないことなのでは……」

「ララ」

 アーカイエスは、殊更優しい声で言った。

「ファーレン神殿に帰りたければそうしなさい。神官長には私から手紙を書いておく」

「いいえっ」

 だが、ララは強い声で否定した。

「申し訳ありませんっ、アーカイエス様っ。もう申しませんっ。ですから……っ」

「分かっている」

 アーカイエスは薄く笑んだ。

「ところで、今何処にいるのかな?」

「ロレーヌの南区の宿屋におります。……私、これからどうすれば?」

「そうだね、もう少しでこちらの用が終わる。ロレーヌに行くのは後四、五日掛かるから、それまでそこの宿屋にいなさい。宿の名前は?」

「川蝉亭です」

「分かった」

 ララは深く頭を下げると、現れた時と同様唐突に消えた。

 少女の残影を惜しむように、アーカイエスは暫し彼女の居た虚空に目線を留める。

「済まないな」

 溜め息をひとつ落とし、脚の高い椅子から降りる。

「……あちらの思惑に乗ってやるか」

 小さく呟くと、アーカイエスはゆっくりと部屋を出口へと横切った。

魔法石の盗人にして、ノルン・アルフルの魔導師、アーカイエス。


やっと名前が出てきました・・・(汗)

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