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「では、改めて自己紹介して頂いてよろしいですか?」
笑顔を深めて、クレメントは自分から始めた。
「僕はクレメント・エディン・ダルタニスです。一応魔導師です。以後はクレメントと呼んで頂いて結構です」
「俺はジェストロッド・キリアン・カーライズ。剣士だ。ジェイスでいい」
「私はシェイラ・ラトランス。傭兵だったけど、今はキリアン伯の従者よ。……って、仲間なら、従者じゃないわね」
付け加えたシェイラに、皆が軽く苦笑する。
ニーナミーナが、改まった顔で続いた。
「私はニーナミーナ・ワッツ。先程殿下……、じゃない、クレメントが言ったように、神官戦士よ。あと、イリヤ神特有の魔法も幾つか使えるわ」
それを聞いて、クレメントが銀の瞳を大きくした。
「では、『勇者の声』が唱えられますね?」
「何だそれ?」
分からない、と眉を顰めたジェイスに、パッドが説明した。
「『勇者の声』は、敵がその呪文を聞くと震え上がり、味方が聞くと勇気が出るという、特殊な呪文です。妖魔の咆哮と近いですね」
「咆哮——?!」
この美人が妖魔のように吠えるのかと想像して、ジェイスは思わずのけ反る。
察したシェイラが、
「そんなことある訳ないでしょ。呪文よ、呪文」
と、長身を睨み上げた。
「『勇者の声』は妖魔にも効き目があります。カスタの古代遺跡の中は妖魔だらけですから、それを唱えられる人がいるのは助かります」
「じゃあ、カスタの遺跡に行くの?」
ニーナミーナが、ぱっと顔を輝かせた。
「ええ、最終的には行かなければならないでしょう」
「うわあっ。私一度は行ってみたかったんだ。楽しみー」
「ニーナミーナ……。ピクニックじゃないんだよ」
嗜めたパッドが、最後に自己紹介した。
「私はパッド・ローエンです。イリヤ神殿警護の騎士です。よろしくお願いします」
堅いよ、と囃したジェイスに、シェイラは言い過ぎだと小言を言い、パッド本人は金色の頭を掻いた。
一通り挨拶をし終わり、一同は出口へと向かった。
門への道を行きながら、ニーナミーナがシェイラに尋ねる。
「これから何処へ?」
「フィルバディアよ。カスガの館に用事があるんですって」
「えー? 魔法石はもう無いのに?」
ニーナミーナの尤もな意見に、パッドもジェイスを見る。
ジェイスは溜め息混じりに、
「クレメントが行きたいってんだよ。言い出したら聞かないからな、このご仁は」
「……やっぱ、殿下なんだ」
小さく揶揄したニーナミーナを、クレメントは「ええ」と恐いにっこり顔で振り返った。
「ま、そういう事ですので、これから出発します」
先頭を切って歩き出したクレメントの後を、一同は溜め息をひとつ落としてついて行った。
ほんと、ピクニックじゃありませんよー、ニーナミーナ(笑)