表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第一章 魔法石の盗難
4/153

4

 彼等の話に割り込んで来たのは、にこやかな笑顔を浮かべた若者だった。

 年齢は二十歳くらいか。ジェイスより頭半分程低いくらいなので、長身の部類である。

 両肩から胸元まで細い金糸の刺繍を施した、木の葉模様の透かしの入った夏物の絹の白い長衣を、優雅に纏っている。着衣の良さと身ごなしから見て、貴族か大きな商家の子息であろう。

 だが、ジェイスの目を最も引き付けたのは、彼の服装ではなく容姿だった。

 肩まで伸ばした髪は若緑色、笑みに細められた瞳は銀という特殊な色彩の上に、長身の割に細身の身体の上に乗った顔は、絶世の美女としか思えぬ美貌である。

 ロンダヌスの王家の始祖は、トール・アルフルの王である。長く続く王家の例に漏れず、古代カスタ王国から続くロンダヌス王家の血筋は、王族貴族のみならず、豪商や庶民にまで広がっている。

 トール・アルフルには、眼前の若者のような、人間とは色彩の全く異なる者も多くいる、と聞く。また、飛び抜けて繊細な美貌も、トール・アルフルの特徴であるらしい。

 らしい、というのは、トール・アルフルとその血を継ぐ人間は、このパンドール大陸では2ヶ国にしか居住していないからである。当然ながら、ランダスでトール・アルフルを見掛ける事は、一切無い。

 しかし、聞くと見るでは大違いだ。

 息を呑む程の美しさが、正に目の前に存在している。

 あんぐりと口を開けてしまったジェイスと、同じく声もなく若者を見詰めているシェイラに、若者は微笑を苦笑に変えた。

「すみません、驚かせました?」

「あー……、いや」

 声音は間違いなく、柔らかな男声である。にも関わらず、ジェイスは不覚にも顔が赤らんだ。

 どうして自分が、男(だと思われる相手)に、ときめきを覚えるのか?

 もしかして、眼前の美形は本当は女性なのか? 

 確かめるべく、ジェイスは若者の顔に、ずいっ、と自分の顔を近付けてみた。

 若者は、驚いて逃げる風もなく、笑みのままの銀の瞳に、ジェイスを映している。

 微かに、甘い花の香りが、若者の身体から香っている。

「あんた……、本当に男か?」

「ジェイスっ!」

 不躾な態度と質問に、シェイラが怒鳴る。が当の若者は嫌な顔をするどころか、にっこり笑顔を更に深めた。

「ええ、一応」

「ごめんなさいっ、不作法な人で」

「いえ。よく聞かれますもんで、今更気にもなりませんので。けど、質問される方の大半は『男です』の答えにがっかりした顔をされます」

「だよなあ。男ならそうだよな」

「もうっ。本当にごめんなさい、名乗りもしないで。あたしはシェイラ、こっちはジェイス。ランダスから来たの」

「僕はクレメントです」

「失礼だけど、ご身分は? もしかして貴族のご子息かしら?」

 容姿からすれば、間違いない。トール・アルフルの特徴は、貴族に出易いらしい。

「いえ……。通りすがりの放蕩者です」

 が、クレメントは、シェイラの問いに曖昧に答えた。

 シェイラとの話の間中、じっとクレメントを見ていたジェイスは、相手が笑顔のままだが目が笑っていないのに気付いた。

 何か隠している。

 だが、問い詰めても白状するような相手ではなさそうだと思い、この場ではこれ以上追求しないと決める。

 ジェイスの人間観察眼は、案外と的を射ている。

 というのを、付き合いの長いシェイラはよく知っている。

 ジェイスが黙っているのを、相手を探っているからと察知したシェイラは、クレメントの身上から、話を切り替えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ