4
「カスガの館って……。何でまた?」
七賢者の一人、カルクトゥース・カスガの館は元の王都フィルバディアにある。カスガが忽然と消えてからは無人で、王とイリヤ神殿の管理下に置かれていた。
「行って、何がある訳では、多分ありません」
きょとんとするジェイスに、クレメントは続けた。
「ただ、賊の痕跡の多少はあるかも、という程度だと思います」
「それだけ?」
「ええ。それだけです」
きっぱり言ったクレメントの目は、笑ってはいるが確固とした決断を語っている。と同時に、真意は全く伝えない謎の輝きを帯びていた。
本当に綺麗な目だなあ、などと、勝手に内心でのろけつつも、ジェイスは頭の隅で冷静にクレメントの性格を分析していた。
もしかしたら、クレメントは他人が苦手なのではなく信用していないのかもしれない。
そもそも、大国の王太子ならば、それ相応の近中や守役が常に付いている筈である。
それが一人も付いて居ないというのは、どう考えても、クレメントが従者達を煩がっているとしか思えない。
確かに、強大な魔力を有した魔導師である彼が側近らを巻いて城を抜け出すのは簡単だろうが、王太子という己の立場を考慮すれば、無断外出はしないのが得策なのは、馬鹿でも分かる。
明晰なクレメントが、その辺りを分からない筈はないのに、勝手な単独行動を取りたがるのは、他人不審としか考えようがない。
しかし、何故他人が信じられないのかと問い質したところで、この喰えない王太子は笑顔の煙幕で誤魔化して答えはしないだろう。
「……へいへい」
恐らく、自分も信用されていない一人だろう。
少し物悲しくなり、溜め息混じりに返事をして、ジェイスは玄関広間へと目を転じた。
広間は、今日も陳情に訪れる人々で混んでいた。
大半は地方の商人である。彼等は稼ぎ時のこの時期に、何とか中央の商業権を手に入れ、都で商いをしようと目論んでいるのだ。
「年に一度の新年の祭だってえのに、商売熱心なこった」
ジェイスは、半ばやけも手伝って商人根性を皮肉った。
「けど大変ですよね。地方の人々にとっては、この時期しか都に来られる機会は無いでしょうし」
「さすがに、よくご存じで」
暗に風来坊を咎めるジェイスの言い方を、クレメントは軽く受け流す。
「ロンダヌスも同じ様ですから」
大階段の一番下に四人並んだ兵士の間を通り、広間の中央の丸い卓近くまで来た時。
「キリアン伯っ!」
聞いた声に呼び止められて、ジェイスは人混みに目を凝らした。
商人の列を掻き分けてやって来たのは、昨日イリヤ神殿で出会った二人、パッド・ローエンとニーナミーナだった。