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「クレメント殿下」
微笑みながら、自分とジェイスのやり取りを見ていたクレメントに、ソルニエスは向き直った。
「これで、王の大剣は大丈夫でしょう。けれど完全に危険を無くするには、賊の目的——ライズワースの魔法を全く発動出来ないよう、カスタの遺跡を壊す事が必要でしょう。そうでなければ、相手は何度でもこの剣を狙って来るでしょう」
「遺跡を壊すって……。んなでっかいもの、じえない、巨大なものを、どうやって破壊せよと?」
カスタの古代遺跡は、ロンダヌスの国土の3分の1を閉める。
ジェイスは、さらりと飛んでもない話をしたソルニエスに、思わず問い質した。
答えは、クレメントから返った。
「それには僕の力が役に立つ筈です。……何せ、僕は魔力だけは馬鹿みたいにありますから」
クレメントは、自嘲とも取れる笑みをちらりと浮かべる。
彼の言い様が何となく引っ掛かったが、ジェイスは触れなかった。
二本の大剣を背中に背負い、ジェイスは文机の前へ出たソルニエスに膝を折る。
「王の剣は、このキリアン伯、命に替えても守り抜きます」
「どうか、ご無事で任務を果たされますよう」
立ち上がると、入れ替わりにクレメントがソルニエスに軽く膝を折り、礼を取った。
「お世話になりました」
「こちらこそ。また是非、我が国へお出で下さい」
ソルニエスは、愛らしい笑顔でクレメントに答えた。
「どうか……、ご無事で」
己の理解から大きく事態が外れ完全に混乱しているカーライズ公は、弱々しくそれだけをジェイス達の背中へ送った。
「さて、それじゃロンダヌスへ直行か」
玄関広間へ降りて行きながら、ジェイスはひとつ伸びをする。
「でも、王太子殿下、ロンダヌスまで徒歩とは……?」
ジェイスの後についたシェイラが、並んだクレメントに訊ねる。
「ご説明、しませんでしたね」と、クレメントは微笑んだ。
「飛翔の魔法は、何度も使えないんです。あれ、結構魔力を消耗するんですよ」
「え? って、昨日はけろけろしてたじゃないか?」
素直に驚いて、ジェイスはクレメントを振り返った。
クレメントは苦笑して、答えた。
「だって、倒れていたら探索が出来ないでしょう?」
「じゃあ、昨日はお辛かったんですか?」
眉を曇らせたシェイラに、クレメントは「いいえ」と、美貌に極上の笑みを乗せた。
神々でさえ見蕩れるかと思える笑みに、向けられたシェイラが思わず陶然となる。
勿論、ジェイスは自分の顔色が変わったのに気が付いて、慌てて横を向いた。
「本当に多少です。でも、昨日の今日でまた、というのはさすがに来ると思いまして。それに、キリアン伯もシェイラさんも、魔法での移動は好きではないようですし」
「そ、そりゃ……、そうだけどさ」
「え、えーと、ロンダヌスまで歩きとなると、今日はこれから街道へ出て、次の街までは夕方には着きますが」
どきまぎから解放されたシェイラが、話題を変える。
だが、クレメントは意外な予定を切り出した。
「いいえ。その前にカスガの館へ行きます」