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「賊は狡猾にして強大な魔力を持つ魔導師です。イリヤ神殿の魔法石の奪い方といい、このまま探索を続けてもまず、捕まらないと思います。
それに、殿下のお話ですと、問題は賊が魔法石を奪った事ではなく、カスタの遺跡でそれを使用する事です。ということは、カスタ遺跡自体をどうにかしない限り、魔法石を取り戻してもまた同じ事件が将来起こるでしょう」
幼い国王の意外な発言に、カーライズ公はすっかり狼狽える。
「しっ、しかし……、陛下、もし賊が魔法石をその……、扱い切れずに破壊してしまうような事態が起きました時は……」
「それも致し方ないかな、と思います」
「へっ、陛下っ!」
「先程も言いましたが、もし魔法石が『怒りの女神』復活のための道具なのだとしたら、それこそ壊さなければ危険です」
「ですが、あれはフィルバード王から代々我が王家に伝わる大切な……」
「そのフィルバード王が、あの石は預かったものだとおっしゃっていらしたと、ランダスの史書には書かれいます。僕もそう思います。
大体、魔法を使えない我がランダスの代々の王が、あんなに大きな魔法石を後生大事に宝にしている必要は、本当は無いのではないですか?」
随分と斬新な考え方だと、ジェイスは思った。
まだ11歳にしかならないソルニエスが、ここまで考えているとは。
いや、11歳だからこそ、余計な欲に捕われず物事を前向きに捕えられるのかもしれない。
このまま育てば、彼は本当に良い君主になる。
返す言葉を失ったカーライズ公は、眉間に皺を寄せたまま俯いた。
ソルニエスは、全く表情を変えずに、クレメントに向き直った。
「という訳ですので、ランダス王の大剣は、殿下にお預けします。如何様に扱われても結構です」
ソルニエスは、脇に控えた侍従に声を掛ける。侍従は一礼し、文机の後ろの飾り棚に置かれた大剣セプティリアを取り上げた。
眼前に差し出された剣を、だがクレメントは取らなかった。
「では、これはキリアン伯にお預け下さい」
「ジェイスに?」
カーライズ公が顔を上げる。
「何故……?」
「重たいですし」
「……はあ?」
俺は単なる荷物持ちかよ、とジェイスは内心で毒づく。
それが顔に出たらしく、クレメントは軽く笑った。
「というのは冗談にしても。何と言ってもランダス王の大剣です。その血に連なる方が所持してカスタまで運んだ方が、剣のためにもよいでしょう。それに、キリアン伯は剣豪ですから、この剣を使いこなすことも出来ましょう」
暗に守れと言われて、ジェイスは身が引き締まった。
と同時に、本当に自分にこの任が務まるのかという、不安も沸き上がる。
彼は、それを素直に口にした。
「けれど、もし俺……、じゃない、私が賊の手に掛かるような事になれば、ノルオール復活を助ける結果にもなり兼ねません。危険な賭けでは?」
「伯爵は、ご自分が賊に劣るとお考えですか?」
幼い王に逆に切り返され、ジェイスは思わず破顔した。
「いいえ」
ソルニエスも、にっこり笑うと頷いた。
「では、セプティリアをキリアン伯に預けます」
従者が差し出す大剣を、ジェイスは受け取った。