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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第三章 ノルオールの子たち
35/153

11

 晩餐は、急な召集の割りには豪華なものとなった。

 余計な連中の居ない中で、ジェイスは親しい人々と久々にゆっくり語らう事が出来た。

 無論、晩餐の主役は彼ではなく、ロンダヌスの王太子殿下である。

 いきなり魔法でやって来た大陸真反対の大国の美貌の王太子に対し、事情を知らぬ者達が興味津々となるのは事は致し方無い。

 食事の後は無礼講という事も手伝って、クレメントの周囲には、あっという間に人の輪が出来上がった。

「大丈夫かなぁ……」

 知人との会話が途切れたジェイスは、ふと気になってそちらへ目をやった。

 いかつい髭の面々の間から、鮮やかな若緑の髪が見える。

 クレメントは国王の隣に立ち、如才ない態度で重臣達と談話していた。

 それはそうだ、と、ジェイスは変な心配をした自分に苦笑する。

 確かにちょっと風変わりではあるが、クレメントは間違いなく一国の王太子なのだ。

 基本的に国からは動けない国王に代わり、時には外交官として外国へも出向かなければならない立場なのだ。当然こういった席で卒なく立ち回る訓練は受けている。

 ただ、少し心配になったのは、一目惚れしたから、というだけではなく、クレメントがどうも人付き合いが苦手なような気がしたからだ。

 笑顔を絶やさず、飄々と周囲をあしらっているが、その実、物凄く対人関係は不器用なのではないか。

 今日一日という、本当に短い付き合いでの印象でしかないのだが、どうもそんな気がする。

 が、ジェイスの第一印象は、いいか悪いかよく当たる。

 それが、これからのクレメント、いや二人の間柄に凶と出るか吉と出るかは分からないが。

 そんな些細な心配を裡に感じながら、ジェイスはクレメントから視線をもぎ離した。 

 やがて夜も遅くなり、人々の声が低くなり始めた頃。

 幼い国王が眠そうに目を擦り始めたのに気付いたカーライズ公は、皆に宴の終わりを告げた。

 ジェイスは、泊まっていいという兄の言葉に甘え、王城から遠い自分の邸宅には帰らず近い兄の館に泊まる事にした。

 退出際、挨拶したジェイスをクレメントは呼び止めた。

「明日はちょっと寄りたい所があります。早めにこちらへ来て頂けますか?」

 何処へ、と問おうとした時、兄の退出の声がした。ジェイスは、

「じゃあ、早朝に」とだけ返して大広間を出た。

「何処へ行く積もりなのかな?」

 カーライズ公の馬車の後ろで、ジェイスはシェイラと轡を並べた。

 シェイラは晩餐の間中、他の警護の騎士や剣士と共に次の間に控えていた。帰り際のクレメントの言葉を話すと、彼女は首を傾げた。

「さあ……。殿下の考えてらっしゃる事は、分からないわ。魔法に限らず色々知識をお持ちの方で……。かなり変わってらっしゃるし」

「んだなぁ。あれで王太子じゃあ、周りも大変だろうな」

 馬の歩みの揺れに合わせ、ジェイスは頷く。

 シェイラは苦笑して首を振った。

「どっちかと言うと、ご本人が辛いんじゃないかしら?」

「何で?」

「だって、私達もそうだけど、周囲の理解の範疇外でしょう、きっと」

「確かにな」

 頭脳明晰、なのはいいが、本心を巧みに隠して行動するのは、されたほうが混乱するので困る。

 シェイラの言う通り、クレメントの頭の中身は、周囲の理解を超えている。

 ただ、周囲に理解されないのをクレメントが苦にしているかどうかは、判らないが。

 聡いクレメントは絶対、ジェイスの気持ちを見抜いている。見抜いた上で、自身の想いはジェイスに悟られぬよう、煙幕を張っているのだ。

 玄関広間での、クレメントの凄艶な流し目と誘うような態度、それに自分が服を着替えた時の彼の言葉などを思い出して、ジェイスは我知らず赤面した。

「どうかした?」

 急に黙ったので、訝しんだシェイラが彼の顔を覗いた。

 先を照らす馬車の明かり程度では、顔色までは見えないのが幸いした。

 また赤くなっているのがばれれば、シェイラは絶対揶揄ってくる。

「いや、何でも」

 済ました声で返したジェイスに、シェイラは「そう」とだけ言って姿勢を戻した。

ジェイス、翻弄されてます・・・(汗)

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