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地下迷宮の女神  作者: 林来栖
第三章 ノルオールの子たち
34/153

10

 クレメントの言葉を受けて、騎士と神官達は早速神殿の周囲を調べるために出て行った。

 ジェイスとシェイラも神殿の騎士に混じり、辺りが暗くなるまで約二時間程、特に人目につきにくい西側の林を中心に探した。

 魔法陣は見付からなかったが、ジェイスは林の南側でおかしなものを発見した。

「これ、木切れが女物のローブを着てるぜ」

 少し離れた場所を探していたシェイラは、彼の声にそちらへ寄る。

「ほんとだわ。もしかして、賊の遺留品かも」

 ジェイスは木切れを、中で待っていたクレメントとカーライズ公に見せた。

「これは……。魔法人形ですね」

 木切れを見た途端、クレメントは美貌を引き締めた。

「って何だ?」さっぱり解らないジェイスは、眉を寄せる。

「そのままです。一時的にこういった木切れや紙切れなどを任意の動物や人の姿に変え操り人形にする術です。この術は、普通一定時間が経つと魔力が消え、人形はもとの物に戻ります。

 術の効力が働いている間には、遠隔である程度の魔法を使う事が出来ます」

「では、この木切れが神官長に魔法を……?」

 納得行かないという顔のカーライズ公に、クレメントははっきりと頷いた。

「そうです。鉄扉を破壊の魔法で壊したのも、この魔法人形でしょう。この人形は、役目を終えると魔法石を主か、または別の人形ないし賊の仲間に渡して、元の木切れに戻ったのです」

 午後一杯慌ただしく動き回った神殿の人々は、クレメントの話に一様に肩を落とす。

 結局、後一歩のところで賊を特定出来なかった。

「まあ、でもどっちにしても、奴さんはとっくの昔にトンズラしてんだし。どんな手口で魔法石を盗んだかって分かっただけでもよしとするしかねえだろ」

 ジェイスの言葉に、疲れた顔をしながらも一同は頷いた。


 今日はこれで探索を打ち切ると決め、ジェイス達は一旦王宮へと戻った。

「賊は、ロンダヌスでは血の標を使ってこちらへ移動したので、同じ方法を用いるものだと思い込んでいました」

 執務室でジェイス達を待っていたソルニエスに、クレメントは深々と頭を下げた。

「迂闊でした。魔法人形という手段があったのを、全く失念していました。申し訳ありません」

「いいえ。僕達ランダスの者だけでは、到底そこまでも分からなかったと思います。殿下のお力で、賊の正体は掴めたのですから、こちらこそお礼を申し上げます」

 幼い王の心底からの礼に、クレメントはほっ、と美貌を和ませた。

「ところで、急なお越しなので大した支度は出来なかったのですが、晩餐の席を設けました。お口に合うかは分かりませんが、我が国の料理を用意させましたので」

 キリアン伯もぜひ、と言われ、ジェイスは困った。国王主催の晩餐に、旅で汚れた武装姿のまま出席は出来ない。

 かといって私邸に戻っている時間は無い。

「確か、私の私邸でそなたの長衣をいくつか預かっている筈だ」

 兄カーライズ公は急ぎ侍従を私邸へ走らせ、屋敷の衣装部屋に残っていたジェイスの長衣を取って来させた。

 三十分後に侍従が持って来た私服に、ジェイスは王城の貴賓室を借りて着替えた。

 精緻な連続模様が織り込まれた緋色の地に金糸の縁取りをされた上着は、ジェイスの精悍な美貌を際立たせる。

 覗きにやって来たクレメントが、大柄な偉丈夫のあでやかな姿に、うっとりと目を細めた。

「さすが、ランダス一の名家の御曹子です」

「よせって。あんたに言われると妙に照れる」

 ジェイスは思わず本音を吐露した。傍で聞いていたシェイラが吹き出す。

「な……、んだよっ」

 浅黒い顔を真っ赤にした主の本音には触れず、シェイラは顔を真面目に整え、答えた。

「いえ。王太子殿下はお目が高いと思いまして」

「やはりシェイラさんもそう思いますか?」

 婉然と微笑むクレメントに、シェイラが頷く。

「何なんだよっ、二人してっ」

 分からないジェイスは焦れて膨れた。

「要するに、惚れ直した、という事です」

「——なっ」

 流し目で、クレメントにさらりと言われて、ジェイスの顔が更に赤くなる。

 シェイラとクレメントは、酸欠の魚のように口をぱくつかせるジェイスに大笑いした。

 揶揄っているだけなのか、本気なのか?

 クレメントの本心は、その挙動からは全く読み取れない。

 宴の席へ向かうべく貴賓室を先に出る王太子の細い背へ、ジェイスは小さく「ちぇっ」と舌打ちした。

ジェイスにホレてるって・・・

本気なのか、遊んでるだけなのか・・・?


クレメント、謎です。

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